新しい芸術領域の創造へ溢れる個性 秋田公立美術大学が卒業・修了展 

亀田桃香さんの「のぞき箱」シリーズに見入る女子高校生(写真上、秋田県立美術館)と、 小屋やブースなど多彩な表現方法で発表した秋田公立美大の卒業・修了展(同下)=秋田市文化創造館

今年の春に秋田公立美術大学(霜鳥秋則学長、秋田市)と大学院を卒業・修了する学生たちの作品を集めた卒業・修了展がこのほど、秋田県立美術館や秋田市文化創造館など5会場で5日間にわたり開かれ、幅広い年代層が訪れた。(伊藤志郎)

映像、写真、絵、文章が絡み合う

作品の「すべてが圧巻」と見学客

同大は一つの美術学部美術学科(5専攻)と一つの大学院研究科がある。同展では、立体造形から映像作品まで多分野にわたり、アーツ&ルーツ、ものづくりデザインなど5専攻の学生106人と、大学院の複合芸術研究科の10人が1作品ずつ出品した。

従来のような「日本画」「油画」「彫刻」などの区分にとらわれない同大は、新しい芸術領域の創造に挑戦することを基本理念としている。従って、各学生の作品テーマは極めて個性的で、表現手法も映像や写真、絵、文章、さらには楽器のライブ演奏など複合的に絡み合うものが多い。展示の仕方も専攻ごとではなく横断的で「さまざまな空間や表現が交じり合う」構成になった。

記者は展示構成に最初戸惑ったが、慣れてくると新鮮な刺激を受け、なにやら体内の創造意欲が湧き上がってくるから不思議だ。写真や絵で物語を創作してみようかな、という気持ちにさせるパワーが会場に満ちている。

会場内に「小屋」を作った学生が何人かいた。その一人、早坂君は木材やコンパネで小屋を作り、外壁に、各地を訪ねた記録をモノクロ写真やパラパラアニメ、スケッチを貼り付け、直接コメントを書き込むなどして表現。本人は小屋の中で来場者と話したり、マイクで外部に語り掛けたりする。

一方、2020年の夏に市内の橋のたもとに1羽のオオハクチョウが泳いでいるのを見つけ、「鳥類の一生で最大の旅『渡り』」について考え始めたのは菅原さんだ。布や糸、白鳥の羽による展示と、いろいろな鳥の写真や絵、解説を交えて渡りの意味を深堀りする。

同大の四つの基本理念の一つに、「秋田の伝統・文化をいかし発展させる」がある。柴田さんはその理念に真正面から取り組んだ。会場では、秋田県の市町村の名産、例えば「いぶりがっこ」や「十文字ラーメン」を毛糸や和紙などで作り「その手に秋田を」と題する一連の作品を陳列した。彼女は秋田にまつわるものをモチーフに広告を中心としたグラフィックデザインやキャラクターの制作を行っている。

また実家の家業に着目し、捨てられる着物の再生に取り組む学生もいた。会場では、着物をほどいた5枚の反物から一つの裂織(さきおり)を作る工程を再現し、来場者と着物の価値や歴史について語り合う姿が見られた。

ほかにも、毛糸で十数点のサボテンを作ったり、土とガラスを同時焼成した大西さんの3作品、母娘の心の交流を表現した重さ2㌧もの紙の塊、組木を立体的に組み合わせた小野さんの「透重」、100点ほどの小スケッチを壁一面に並べた作品など学生の思いが噴き出ているユニークな作品が多かった。見学に来た70代女性は「すべてが圧巻です。学生の説明を聞くと、見方が変わります」と感想を述べた。

卒業後の進路について何人かに話を聞いた。「ゲーム系のCG制作会社に就職する」「仕事にかかわらず着物の意味や歴史に興味を持っていきたい」「2カ月間就職した後に全国を旅して歩きたい」などさまざまだ。

昔は、芸術関連の大学進学は生活の糧にならないと親から反対される時期があったが、同大では卒業後のさまざまな進路が用意されている。就職先の半数以上はクリエーティブ関連企業、つまりデザイン、広告、映像、舞台美術、放送、設計などに進む。

平成29年4月に同大学はキャリアセンターを設置し、企業や教員・公務員、作家・起業、進学・留学など、学生の多岐にわたるキャリア選択に沿ったきめ細やかな支援を実施してきた。当然ながらインターンシップや試験対策講座、企業対策を行っている。美術学部4年生の進路では近年、卒業者約90人に対し希望進路明確者が80人超で、企業への就職決定者が7割を超える。ほかは進学・留学10人超、作家・起業が5人前後だ。

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