「小学校の道徳教育に期待したいこと」
文科省初等中等教育局 浅見哲也・教科調査官
授業に教科書以外のツール使用を
現役教師、教員を目指す学生、教育関係者向けに「次世代につなぐ道徳教育の新たな展開」をテーマに「道徳教育の未来」セミナー(東京学芸大学道徳教育研究会主催)がこのほど同大学の講義室およびWeb会議ツールZoomを使って開かれた。文部科学省初等中等教育局の浅見哲也教科調査官が「小学校の道徳教育に期待したいこと」と題して語った。以下は講演要旨。
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道徳性とは▼思考や判断、行動を通じてより良く生きるための営みを支える基盤となるもの▼人間としての本来的な在り方やより良い生き方を目指して行われる道徳的行為を可能にする、人格的特性であり、人格の基盤をなすもの▼人間らしい良さであり、道徳的価値が一人ひとりの内面において統合されたもの――だと学習指導要領解説の総則に書いてある。
道徳性を構成する四つの項目が「道徳的判断力」それぞれの場面で善悪を判断する。「道徳的心情」道徳的価値の大切さを感じ取り、善を行うことを喜び、悪を憎む感情。「道徳的実践意欲」道徳的判断力や道徳的心情を基盤とし道徳の価値を実践しようとする意志の働き。「道徳的態度」道徳的判断力や道徳的心情に裏付けられた具体的な道徳的行為への身構え――として学校教育における捉え方を示す。
子供たちが、言われたから、怒られるから決まりを守る、というのではなく、意識して守るという、発達の段階を踏まえた指導が教師には必要になってくる。小学校1年生、2年生では「約束を守り、みんなで使う物を大切にする」。2年生から3年生では「約束社会の決まりの意義を理解し、それらを守ること」となる。5年生から6年生では「法や決まりの意義を理解した上で進んでそれらを守り、自他の権利を大切にし、義務を果たす」ことを発達の段階を経て、指導のポイントを変えていく。そして、どちらが良いと思いますか?という判断を子供に求める問い掛けも教師の側に必要となってくる。
中学年・高学年になってくると、教材を活用しながら、道徳的価値を自覚していくことになる。自分との関わりを通して①自分の価値観(気持ちや考え)を確かめる「人間理解」②みんなの価値観を出し合い、比べ合う「他者理解」③いろいろな気持ちや考えの中から、より良いと思う物を見つけ、自分の生き方に生かそうとする「価値理解」を通して多面的・多角的なものの見方を身に付けていく。自己の生き方について導き、深めることが必要になってくる。
これから求められる力は、「どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をより良いものにしていくのかという目的を自ら考え出す力」「答えのない課題に対して、多様な他者と協議しながら目的に応じた納得解を見いだす力」を育んでいくことが重要になってくる。
礼儀、規則の尊重を重視する「あかるく」を目指すなら、笑顔であいさつができ、約束や決まりを守れるように子供の成長を促す。親切、思いやり、友情、信頼の育成を目指すなら「仲良く」で、思いやりの気持ちを持って、みんなと仲良くできる子供の成長を目指す――などが例として挙げられる。
小学校高学年になると、真理を大切にし、物事を探究しようとする心を持つことが大切になってくる。教材の例としては、「私たちの道徳」(教科書)の中に「天からの手紙」(小学校5・6年生用教科書)がある。
概略は「日ごろから雪害を防止したいと思っていた中谷宇吉郎(北海道大学教授時代)は、ある日、手にした写真の雪の結晶の美しさに感動し、雪の研究に着手する。実験装置作りや、雪の核になるものを求めて失敗を繰り返しながらも工夫を続け、ついに、うさぎの毛を利用して雪の結晶作りに成功する」という内容。
子供たちの感想を聞くと、真理の探究よりも、「希望」「努力」「強い意志」を感想として挙げる。諦めずに努力することに重きを置いている。その時点で、理解を子供任せにせず、教師の立場から言うと、真理の探究という方向に向け、「発想がすごい」「探究心が旺盛だ」などという真理探究に向けての姿勢を育むことを忘れてはいけない。
これからインターネットと人工知能を活用した時代に向け、「他者と共により良く生きていくために必要な感情交流」「人工知能には想定できない人間そのものの理解」という発想が求められ、大事になってくる。教科書で学ぶことも重要だが、新聞記事、地元の童話を有効に使うことも、飽きさせない授業として必要なことだ。