東京学芸大で「道徳授業パワーアップセミナー」
新学習指導要領が実施され、「特別の教科 道徳」として出発した道徳教育。子供たちの受け取り方、教員の教え方がどのように変わったのか、また、変わるべきなのか、東京学芸大学に事務局を置いた「道徳授業パワーアップセミナー」がこのほど、Zoomを使って開かれた。同大学の永田繁雄教授は難しい岐路に立たされている教員、教員を目指す学生らを対象に「どういった視点で子供を育んでいけば良いのか、記述式となった評価をどうしたら良いのか」について講演した。(太田和宏)
永田教授が教員目指す学生に講演
文部科学省によると、令和3年度、道徳教育実施状況調査で、これまでの「道徳の授業」から「特別の教科 道徳」になって授業が好きになったと答える児童・生徒が多くなったという回答が寄せられている。「道徳の授業が体育などに振り替えられて、それが良かったという意見かもしれない」と永田教授は単純に「良かった」という意見を受け入れることに疑問を抱く。
新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)と言われている。「追究型、誘導型、考え議論する」というのが最大のキャッチコピーであるが、考えるのも、議論するのも子供たちであるはず。しかし、教師が考え、追究する授業になって、先生が先頭に立って引っ張り、子供たちが従っていく、硬直化した授業になっていないだろうか、と課題を提起する。
道徳の授業が教科化され、子供たちがこれまで以上に授業が好きになっているかどうか。これが最大のポイント。これを実行していくには、校長が方針を明確化して、推進教師の役割と位置を示し、学校全体の教師参画と分担・協力によって機能的な協働体制をつくることだと指摘する。
そのためには、「守りの道徳」(原則を優先し固定概念を押し付けるような授業)から「攻めの道徳」に転換することが必要だという。「攻めの道徳」とはその都度、子供と一緒に「これができる」「あれができる」と子供にハンドルを持たせ、余裕を持った多彩な授業を行い、子供たちを認め、納得してもらうこと。学習する側の意識や問題を大事にすることが必要。授業の特質があいまいになる面もあるが、子供たちが最終的にどのように在りたいか、どういうゴールに辿(たど)り着きたいのか、辿り着けないかもしれない、そこをうまく調整しながら、多角的な視点を持って育み、導くことが必要だという。
そして、「攻めの授業」で教師側が大切にしたい事として、純粋な子供のエネルギーを信じ「子供の心の力を信じ切る」、人格を尊重し謙虚になる「子供との共有目線を重視する」、思い切った方法に挑んで「“物議を醸す授業”を恐れない」という三つを挙げる。
関わりのポジションについて、導入時など学びのステージに誘い込む「先導者」としての問い。学習の中で子供が持つ個性的な発言を束ねたり明確にし、全体に問い掛ける「伴走者」としての問い。問い続ける子供の後ろから、教師がフォローする「後援者」としての問い。子供自身の継続的・連続的な問いを受け入れる「見守り者」としての問いが必要だという。そうした視点を持った問いを発すれば、子供たちの頭の中を活性化することができる。
道徳の授業の狙いは「心情を高めること」「考えを深めること」にあり、算数・数学、理科などの授業とは違い、生涯懸けて追い求めるものであり、短絡的に授業の結論「落としどころ」は固定せず、柔軟に考え、個々の児童・生徒が納得解(独立しているが対話によって孤立していない)を持ってもらうことだ。
「特定の価値観を押し付けない」「全員の合意形成を目的としない」「教師の価値観に引き込まない」「結論自体を柔軟なものにする」と厳格な「落としどころ」のない授業を推奨する。
「特別の教科 道徳」になって教師が一番苦労していることは、どのように評価するかだ。知識を測るペーパーテストや挙手の発言回数をカウントして積極性を評価するというようなものではなく、成長の跡を文章で評価を示すという点にある。文科省の提供している解説書には「多面的な視点」「自分との関わり」と記されている。
評価のポイントとして、否定的な表現は避け、子供の持ち味を引き出すことを念頭に置くことが必要だ。発言が得意な子供もいれば、発言できず、文章を書くのも苦手な子供もいる。一対一で尋ねると、返事をしてくれる子供もいる。そういった子供を教師の立場から(上から目線で)「褒める」のではなく、子供の中の基準で「受け止め・認めてあげる」そして「促し・励ます」ことで子供たちを後押しすることができるような評価をしてほしい。