デジタル人材不足 育成が急務

「情報Ⅰ」必修化 大学入学共通テストで認知度高まる

「情報Ⅰ」の必修化を見越した授業の様子

2030年には約80万人の不足も

即戦力求める企業 高専・専門学校の充実へ

これからの時代は、デジタル技術で業務の効率化や事業変革を目指す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が急速に進み、データ解析や人工知能(AI)を理解し、使いこなせる人材が求められている。

だが、「情報」を専門とする教員が不足している。企業の人材や教員を育てるには、じっくりと腰を据えて育成したいところだが、小学校から大学までに「情報科」を専門に勉強し、免許を持った教員が少ない。時代の求める企業の人員、専門の教員を育成するのに躍起になっている。(太田和宏)

教員不足深刻な学校現場 研修でスキルアップを

国内のIT人材は2030年には113万人に増える見込みだと経済産業省が予想している。だが、最大で約80万人もの不足が出るというデータも。世界デジタル競争力ランキングにおいて、韓国の12位、中国の15位に後れを取る日本は64カ国中28位となっている。

総務省の22年版情報通信白書によると、デジタル化を進める上での課題に「人材不足」を挙げた国内企業は67・6%で米国の26・9%、ドイツの50・8%よりも高い数値になっている。国内での人材争奪戦も激しく、IT関連企業では転職関連の技術職倍率は8倍を超え、全体平均の1・8倍を大きく超えている。好待遇で中途採用を試みる企業、自社人材を育てる“育成”の2本柱で企業は四苦八苦しているが、ここでも教える人材の不足は否めない。

高度なデジタル技術を取得すれば、働く場所、機会は広がる。情報データを扱う関連産業、デジタルソフト開発企業に限らず、5Gを駆使した遠隔医療や天気・気温を判断して水や肥料を適度に施す農業分野、地域住民の福利厚生を担う自治体などさまざまな分野で需要が高まっている。

政府は「経済財政運営と改革の基本方針」(6月閣議決定)で「人への投資」を柱に掲げた。デジタル人材を育成する中核として大学と並び高専や専門学校を挙げている。また、IT関連企業は高専や専門学校の卒業生を即戦力として期待している。高専や専門学校は学習指導要領に拘束されず、自由にカリキュラムを組むことができる。教員免許を持たない専門家や起業家の講義を受け、実践力を育むことができる。

デジタルイノベーションにも、人材育成の文言が明記されている。政府は26年度までにデジタル人材を230万人育成する目標を掲げているが人材を育成するだけのカネと人材が供給できるかどうかがカギとなる。教員の専門知識を高める環境整備も当然必要なことだ。

学習指導要領に基づいて、今春から高校の授業に「情報Ⅰ」が取り入れられるようになった。年間の授業時間は1年時に週2時間程度と国語、英語、数学などよりも少なく、他教科を専門とする教員で情報に詳しい人を選び、代替としている学校が少なくない。専門知識を持った「情報科教員」を各校に配置してほしいという要望が各地方教育委員会から出されている。

教員免許においても、以前は他教科の普通免許状も所有という副免許条件を付けて採用している自治体も多かった。だが、「情報Ⅰ」が必履修科目となり、25年から大学入学共通テストも新設される。これらのことから高校に最低1人は「情報Ⅰ」を専門に教える教員を配置したいというのが文部科学省の考えだ。

「情報Ⅰ」が目指すものは、「問題の発見・解決」に向け、効果的にITを活用できる力の育成。プログラミングのほか、動画やウェブサイトなどの情報伝達やデータの整理・分析手法など、データサイエンスの基礎を身に付け、ネットでのいじめやサイバー犯罪の防止なども学ぶ。2年で学ぶ「情報Ⅰ」ではAIやビッグデータ、デジタルコンテンツなどを学ぶ。現場の教師からは「週2コマの授業では、教える内容が多過ぎ、とても教え切ることができない」と悲鳴が上がる。

だが、現状は厳しいものがある。都道府県の情報教員採用数は18年の採用試験の44人から、51人、70人、76人、22年で113人と増えてきているが、まだまだ足りない状況だ。

情報教育の基礎知識は時代と共に進化していく。以前の情報免許を取得している現場の教員の研修をはじめ、他教科を専門としている教員のスキルアップを目指すことも必要だ。そこにはさまざまな法令の改定や教員の働き方改革、予算措置などが当然必要になってくる。

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