山形東高教育企画課長の佐々木隆行氏が講演
NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)主催の五月祭教育フォーラム2024が、対面とユーチューブ上で開催された。大学入試改革が叫ばれる中、今年のフォーラムでは『再考総合型選抜~評価されるべき「学力」に迫る~』と題して、東京大学本郷キャンパス法文2号館31番教室で行われた。「山形東高の挑戦と展望について」と題して山形県立山形東高等学校教諭・教育企画課長の佐々木隆行氏が講演した。以下は講演要旨。(太田和宏)
以前は点数以外無視
外部の人材との連携不可欠
山形東高は140周年を迎える伝統校で県内でもトップクラスの大学進学実績を持ち、進学校という宿命を担ってきた。だが、近年、進学実績が伸び悩み、東大の理系に入れない状態となった。大学入試が変容する中、共通テスト対策でも思考を主にした探究学習が求められ、県教育委員会から「普通科と探究科を併設してはどうか」という打診があった。平成30年から普通科と探究科を併設し、全校挙げて探究学習に注力する方向に変わってきている。
改革を行った背景として、「とにかく、やってみよう」という教員の協力が大きかった。授業方法はアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)、黒板講義、ペアワーク、グループワーク、情報通信技術(ICT)を含んだ探究的学習など、さまざまな学習方法がある。教科によって向き不向きがあり、教師・生徒にも得手不得手がある。生徒の多様な成長を保障しつつ、バランスを取ることが重要だという認識で教員たちは一致している。
生徒たちも「先生が、洗練された授業で10分にまとめてくれたら、自分でまとめるより、ずっと早い」「そのままだと、記憶に残りづらい。グループワークは、まとまりづらいが記憶には残る」と言っている。9年間時間をかけて改革を推進しているが、これが正解というものは年々変わってきて、いまだに議論を続けている。
改革で変わったことは、教務課、進路指導課、生活指導課などの人員を削って教育企画課を立ち上げたこと。既存の部署は人員減の中で、これまでの仕事はこなさないといけないので、学校としては大英断だった。
優秀さの定義も年々変わってきている。突出した個性を開花させる生徒も出てきた。以前だと英国数理社の主要5教科の点数で優秀な生徒と評価されてきた。社会の中で活躍できる人材の特徴は何なのかを考えると、被(かぶ)っている所もあるが、そうでない所もある。これまで、大学入試では点数で計れない所は無視されてきた。最近の総合型選抜(旧AO入試)や個別大学の入試では、芸術性とか、続けてきた探究学習の成果なども少しだけれど、評価の対象となってきている。
どういった生徒を目指し、育てるのか、議論は続けている。生徒・保護者、地域社会、学校の卒業生らが、何を求めているのか、スクールポリシー、グランドデザインを真剣に討議している。「10年後どんな仕事に就き、50年後にどんな社会になりっているか真面目に考えてみよう」と生徒に問い掛けている。
高校としては、大学に送り込むことが大前提であり、AO入試が増え、思考を問う共通テストになっても、「大学に合格しないと意味がない」というのが教員たちの共通認識になっている。
探究的学習と進学実績の両方を担保できるのか、課題は多い。探究的学習を進めるには、当然、外部の人材との連携が不可欠となる。地元の企業が将来どんな人材を欲しているのか。地元、市民、本人、保護者がウィンウィンの関係にならないと、納得した、永続的な協力関係は築けない。
大学を卒業した後、社会に出た時、どんな仕事をし、どんな生き方をするの?と語り合い、探究的学習のテーマとしている。「進路に関わる」というのは、進路が決まっていて、将来やりたいことが決まっていること。「興味関心がある」というのは自分の好きなことを選びなさいということ。「適正がある」というのは自分が得意と思うことから始めなさい、探究学習のテーマとして三つの選択肢を用意している。「同学年に志を同じくする人がいればグループでやりなさい。いなければ、諦めないで、独りでもやりなさい」と指導している。教員は基本的に伴走者であり、教え過ぎず、バイアスをかけないようにしている。