Home家庭・教育・LGBT農山漁村活性化の鍵握る「農泊」

農山漁村活性化の鍵握る「農泊」

北海道農政部が農村ツーリズムを推進

7月26日に開かれた北海道農泊推進ネットワーク会議で報告する秋田県仙北市のインバウンド農泊の担当職員

人口減少が進む地方、とりわけ農山魚村では担い手不足や高齢化といった過疎化が深刻な問題となっている。そうした中で北海道では都市と地方の交流を進め、都市に住む住民が滞在し、長期にわたって地方との関わりを持つ、いわゆる関係人口を増やす取り組みが道農政部によって企画・実施されている。
札幌支局・湯朝肇)

ネットワーク化が大きな力に

地方の関係人口増を目指す

「北海道の地方が持つ豊かな自然や食、歴史や文化、生活体験などを観光資源として生かし、それらを地域ぐるみで農泊や教育旅行に取り込み、さらに『農村ツーリズム』としてネットワーク化していくならば、それは大きな地方活性化の力となると確信しています」――こう語るのは、北海道農政部で農村ツーリズム推進事業を担当する北島正美係長。

そもそも農村ツーリズムとは、都会に住む住民が田舎でのんびりと余暇を過ごす長期滞在型の旅行のこと。都会の喧騒(けんそう)を離れ、地方の自然の空気に触れればそれだけで気分がリフレッシュするというもの。一方、訪れた宿泊客にサービスを提供する農家にとっては、過疎化や高齢化する農村部で新たな所得や仕事を生み出す機会となっている。従って、農村ツーリズムは地方からすれば民泊ならぬ「農泊」事業ともいえる。

今現在、農泊は農水省の後押しもあって全国的に広がりを見せ、令和5年度末時点で同省が助成する「農山漁村振興交付金」の支援が受けられる農泊地域に採択された数は656に上る。実際に農泊地域の延べ宿泊者数は、新型コロナウイルスによる感染拡大で低下したものの、令和4年は610万人と新型コロナ禍前よりも増え、その上昇傾向も変わらないことから同省は令和7年度700万人達成を目指すという。

6月に行われた農村ツーリズムで交流した札幌大谷大学の学生と農家

北海道が農村ツーリズムの取り組みを始めたのは平成29年度から。農泊を導入する取組地域の掘り起こしや意識醸成を図る意見交換・セミナーを積み重ね、令和3年に北海道農泊推進ネットワーク会議を設置した。その後も全道各地で地域構想づくりのためのフォーラム開催やSNSを活用した情報発信さらには道庁ロビーでのパネル展を毎年開くなど北海道における農村ツーリズムの魅力発信に力を注いでいる。

とりわけ令和6年度の主な取組事業について挙げてみると、一つは若手人材育成支援の観点から札幌市内の大学生との連携がある。6月1日に札幌市内の札幌大谷大学の芸術学部専攻の学生20人余りが、隣町の石狩市の稲作農家に出向き実際に田植えを体験。それを基に農村ツーリズム促進のポスター「農たび・北海道」の制作コンテストを行い、情報発信につなげている。

また、同月20日には空知管内長沼町での「道央地域・教育旅行受入推進セミナー」、さらに7月26日、札幌市内で「北海道農泊推進ネットワーク会議」を開催している。そこではインバウンド(訪日客)農泊先進地といわれる秋田県仙北市の企画担当者を招き、全道から集まった100人近い農泊担当者がその取り組みを学ぶといった地域担当者のスキルアップ・意識醸成を図っている。

今後の予定としては、11月下旬には地域の情報を共有・交換する「農たび・北海道ネットワーク研修会」や来年2月には「農村ツーリズム受入人材育成セミナー」を開催する。

「農泊事業を含めた農村ツーリズムは地方における持続的な収益確保と地域の雇用創出もさることながら、農村への移住・定住を見据えた関係人口の拡大を図るのが狙い。令和6年7月時点で道内では55地域が農泊採択地域になっていますが、今後、数を増やして地方を活性化させたい」と北島係長は語る。

民間調査機関が今年4月に発表した報告によれば、2050年までに北海道で消滅する可能性がある自治体数は117に上るという。地方の活性化は急務の課題というわけだが、農泊を含む農村ツーリズムによる都市と農村の交流が今後の地域活性化の鍵を握っているといえよう。

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