障害者が身近に楽しめる運動環境を

笹川スポーツ財団 東京・江戸川区でモデルプログラム

記者会見に参加したプログラム参加者ら=6月18日、東京・港区の笹川スポーツ財団 写真は共に笹川スポーツ財団提供

肢体不自由な障害者にもっとスポーツを身近に感じてほしいと、笹川スポーツ財団(東京都港区)は江戸川区でモデルプログラムの実施を6月から行っている。そこで得た実践研究の結果を全国に公開することで、地域の障害者スポーツ協会や自治体などに活用してもらい、障害者が運動を日常的に楽しめる環境を整える構想だ。(宮沢玲衣)

ノウハウ提供で全国展開へ

障害者が地域で運動・スポーツに親しめる環境を整備するための効果的な施策や取り組みを検討し広めるため、笹川スポーツ財団は公益社団法人東京都障害者スポーツ協会(東京都新宿区)と共同で、重度障害児が身近な公共スポーツ施設などで運動・スポーツ可能なプログラムを始めた。

現在、国内では障害者向けのスポーツ施設が不足している。日本における障害者数は、身体障害者手帳と知的障害者手帳を持つ人々合わせて、約1160万人。日本人口の9・3%を占める。ただ、障害者専用・優先スポーツ施設は全国で150ほどしかなく、圧倒的に不足している。さらに、適切な知識を持つ人員も不足しているのが現状だ。

プールを楽しむ重度の身体障害を持つ児童 写真は共に笹川スポーツ財団提供

そこで、笹川スポーツ財団は地域のスポーツ施設を3段階に分類。専門知識と経験が豊富な障害者スポーツセンターを「ハブ施設」、障害者優先スポーツ施設や公共スポーツ施設を「サテライト施設」、公民館などを「地域のその他社会資源」とした。スポーツ支援のノウハウを、ハブ施設からサテライト施設と地域のその他社会資源に伝えられるよう地域のスポーツ施設をネットワーク化し、障害を持つ人が近くのスポーツ施設で普段から気軽に運動を楽しめるようにしたいという計画だ。

そのためには、施設間での緊密なネットワークが不可欠になる。

笹川スポーツ財団の小淵和也・政策ディレクターは6月、都内で記者会見を行い、東京都江戸川区で、施設ネットワーク化を実現するに当たっての問題点や課題点を明らかにするモデルプログラムを開始すると発表した。

今回は、障害者スポーツ支援のノウハウを豊富に持つ「東京都障害者総合スポーツセンター」(北区)をハブ施設とし、サテライト施設に「江戸川区総合体育館」、地域のその他社会資源に「江戸川区内区民館・コミュニティ会館」が指定された。実証実験では、それぞれの立場から問題点を明らかにする。

同プログラム参加者は6月から来年3月までの約半年間、水泳などの運動を計8回行う。参加するのは特別支援学校・都立鹿本学園の身体障害を持つ児童とその保護者4組だ。

重度の知的障害の子供を持つ鹿本学園PTA知的障害教育部門会長の山口美佳さんは、「これまで周りの目が気になって運動させたくても、そういう場に行かせてあげられなかった」と障害のある子を持つ親としての苦しい心境を明かした。同プログラムが軌道に乗ることによって「目に見えない障害を持つ方にも、スポーツが楽しいということが広まるきっかけになれば」と期待を込めた。小淵氏が同プログラムの参加協力を求めて、学園を初めて訪れた際には感激して、涙をこぼしたという。

東京都障害者総合スポーツセンターのプールでは6月から9月にかけて、プログラムの第1弾として水泳教室が始まっている。参加した親子は専門指導員の下、水慣れや玉入れなどの運動を行った。

小淵氏は、「ハード面では、ハブ施設の機能を今すぐ備えるのは難しいため、現状あるものをどのように活用すれば対応できるかを相互に話し合いながら、サテライト施設での教室開催のイメージを膨らませている」と振り返った。その上で、サテライト施設での教室開催に向けて着実に準備が進んでいると語った。

江戸川区で今回、実践しているモデルプログラムは重度身体障害者を想定したものだったが、6月の会見では「いずれは知的障害者のスポーツ支援にもつなげていきたい」と意気込みを語った。この取り組みが広がれば、障害児が身近な場所で運動・スポーツをする機会が増えることが期待される。

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