アニメは言語、人種、国境を超える

新潟国際アニメーション映画祭でキャンプ

トップクリエーターの技術を伝授

「国境を越えるアニメーションについて」と題し講演するマイケル・フクシマ氏(左端)

芸術界において、「本物を見る」「真似(まね)る(模写)」がよく言われる。このほど、新潟市で開催された第2回新潟国際アニメーション映画祭で、新潟アニメーション・キャンプが昨年に引き続き開催された。アニメ業界の第一線で活躍するアニメーション監督やプロデューサー、批評家らを招いてのマスタークラスの講義が開かれた。招かれたコンペティション出品作品の監督らは、これまでの経験などを語り、クリエーターとしての心構えを伝授した。(佐野富成)

各国の人と交流「貴重な経験」

同映画祭の特徴の一つは、アニメ業界を背負う若手クリエーターの育成と国際的な人間関係づくりを目的に挙げていること。キャンプにはアニメーション制作を学ぶ若い監督・スタッフ、17歳から29歳の学生たちを対象に、国内(国籍問わず)と東・東南アジアから10カ国700人以上の応募があり、日本国内から20人、東・東南アジアから20人の計40人を選出した。参加者には、居住地から会場となる新潟までの旅費、宿泊費が支給された。

キャンプは主に①マスタークラス:世界一流の監督やスタッフ、ビジネスマンらによる特別講義②コンペティション監督との交流:監督作品の鑑賞とディスカッション、学生作品の鑑賞③映画祭公式パーティーへの参加:アニメーション界のリーダー、作家たちとの出会い④映画祭の上映作品の鑑賞:フリーパスの支給⑤アニメーションキャンプ参加者たちとの交流:日本およびアジアからの参加者と議論し、親交を深め、その関係性を未来の創作や、ビジネスに生かしていく――などが開かれた。

通例の国際映画祭では、こうしたプログラムは行われているものの、アニメの映画祭では意外にも積極的には行われてこなかった。こうした背景から、昨年に続き第2回を開催した。

コンペティション部門の審査員長ノラ・トゥーミー監督

特別講義の講師には、アイルランドのアニメーション作家で今回、コンペティション部門の審査委員長を務めたノラ・トゥーミー監督。元NFBアニメーション・プロデューサー兼代表のマイケル・フクシマ氏、スタジオ地図を設立した齋藤優一郎氏、2023年アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞を受賞した『リンダはチキンがたべたい!』で共同監督を務めたキアラ・マルタさん、S・ローデンバック氏。ライプツィヒ・ドキュメンタリー映画祭ディレクターで映画評論家のクリストフ・テルへヒテ氏の6人が、自身の経験と作品、その分野について語った。

また、コンペ部門の監督、プロデューサー計6人が参加した「クリエイティブ・ミーティング」では、車座になって参加者と意見交換したり、自身が制作した作品を監督、プロデューサーに見せたりするイベントもあった。

昨年も参加したという佐藤瞳さん(21歳)は「作品を見たいという思いから引き続き参加しました。世界中から作品が集まるので、インスピレーションのきっかけになっています」と語った。

東京から参加の女子大生は「いろんな国の人と交流ができて、貴重な経験になった」と話し、さらに期間中、宿舎で「スラムダンクを皆で見たり、自身が制作した映像作品を見せ合ったりしました」と笑顔を見せた。

一方で、昨年キャンプに参加し、今回はスタッフとして関わった男性(20代後半)は、「前回は、日本人のみということもあり日本語で会話ができる状況だった。今回は参加者が多く、日本人が少なかった。海外だけでなく日本人が、もっと来れるチャンスもつくってほしい」と語った。

宮崎駿監督は、日本のアニメーション業界を目指す人たちに「もっと経験を」「いろんな作品(アニメを含む)を見てほしい」と苦言を呈している。例えば萌(も)え系(美少女もの)などに傾倒したり、人気作家の画風だったりとそれしか描けないような人が多く「模写(真似)はできるが個性がない」という状況に現場では危機感が漂っている。

新潟国際アニメーション映画祭で公開される作品の画風は、とにかくさまざまだ。娯楽的なもの、社会風刺的なもの、芸術性の高いもの、死生観に触れたものまである。世界には、日本のアニメに限らず、ディズニーやピクサー、ドリームワークスなど、さまざまな画風のものがある。同映画祭のキャンプは引き続き、来年も行う方針だ。

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