得意分野違うAIと脳 相互補完を

「脳研究者が教える効率的に学ぶためのコツ」

池谷裕二・東大教授がオンラインセミナー

講演する池谷裕二教授(画像資料から)

 脳、人工知能(AI)研究の専門家の第一人者である池谷裕二東京大学教授がこのほど、「だれでも天才になれる!~脳研究者が教える効率的に学ぶためのコツ~」(主催・学校法人佐藤学園ヒューマンキャンパス高等学校・ヒューマンキャンパスのぞみ高等学校)と題して脳とAIの関係、効率的に学ぶ勉強法についてユーチューブプレミアム・オンラインセミナーを開催した。池谷氏はまず、チャットGPTを含めたAIの現状と未来の社会で求められる能力について語った。以下は講演要旨。(太田和宏)

人間に必要な判断能力強化

 AI技術自体はGPT3という名前で2020年以前に存在しており、大学の研究室で使っていた。使うには高度の技術と当時の値段で1000万円くらいの高額なコンピューターが必要だった。22年、11月に話題を醸し始めたチャットGPTは、オープンAIという会社が無料で公開を始めた。スマホで簡単に利用できるようになったことがすごいポイントだ。

 アイデアに困ったとき、チャットGPTに聞くと、簡潔なものから深く詳しいものまで質問者の必要に応じて答えてくれる。

 人間とチャットGPTがアイデア合戦をした。六つのジャンルについてアイデアを出し合い、関係ジャンルに長(た)けた大学教授や専門家が覆面調査を行った。優秀なアイデアを出すのはチャットGPTがほぼ優位だが、飛び抜けて創造性に長けたと評価されるのは人間。AIは、まだ追い付けていない、という結果だった。

 AIは医師国家試験をはじめ、難関な国家試験に合格するレベルにあると言われている。カウンセリングの部門で1960年代からカウンセリングを機械でやろうという動きがある。「合成セラピスト」という表題で広がった。精神科のクリニックに行くと、受付でカウンセラーを人工知能にするか、生身の人間にするか聞かれる。7割くらいの人が人工知能を選択するという。

 人工知能は、長い時間拘束しても、時計をチラチラ見たり、早く終われとばかりに、貧乏揺すりをすることなく、患者に寄り添って、”我慢強く”話を聞いてくれる。相手が人間ではないので、プライベートな恥ずかしいことも全部さらけ出して相談できる。共感力において、生身の医者よりAIの方が勝っているのは確かだ。

 新車には、ほぼ運転アシスト機能が付いている。子供が飛び出してきたり、横断中の歩行者に気が付かず、交差点に進入した時など、AIが察知して、自動でブレーキをかけてくれる。人間の反射スピードより早い。しかし、複雑な交通状況を経験から判断して効率的に運転するのはAIには無理。得意分野が違うからだ。AIに頼りっきりでは駄目で両者の協力関係が必要だ。

 Google DeepMindによって開発されたコンピューター囲碁プログラムのアルファ碁(AlphaGo)は人間より強い。3カ月の間にどれくらい練習したかというと、スーパーコンピューターを3カ月フル稼働して、電気代2億円かけて、1000万局練習した。生涯対局数4000局の李(イ)世●(セドル)を破った。圧倒的短時間で強くなった。だが、現役棋士を打ち負かして喜んでいるAI研究者はほとんどいない。得意分野が違うので、当然なことだと思っているからだ。

 AIから見ると、碁会所などで“ヘボ同士”の手合わせは「なんだ、囲碁にもなっていない。やめた方が良い」というレベルであっても、同じくらいのレベル同士で対面で打ち、楽しんでいる。楽しむ力はAIには無い。AIを作った技術者も楽しんでいない。AIは人間と対戦する時、人間には理解できないような華麗な一手を打つ。しかし、間違いなく、AIは対局を楽しんでいない。人間は“ヘボ”でもやめない。「学ぶことが面白い」「下手だが楽しんでいる」というのが私の言いたいテーマだ。

 笑顔の写真を選出してくれ、とオーダーを出すと、たくさん出てくる。ネットに上げる写真は白人の若い女性が多いので、そればかり出てくる。男性、黒人、有色人種、若年層、高齢者は出てくることが少ない。言葉の上では平等を言いながら、われ知らずのうちに差別的な行動をしている可能性も出てくる。AIは差別の気持ち、偏見など持っていない。でも、人が選択する時には、人の内側に秘めている偏見や差別の汚いものが露骨に表れることもある。

 これから、わたしたちが気を付けなければならないことは、AIはインターネット上のデータで学習しているから、肖像権を侵したり、ハリウッドの有名人の画像を勝手に引き出してきたり、論文を勝手に使ったりすることだ。知らず知らずのうちに肖像権に引っ掛かったり、著作権に引っ掛かったりするので注意が必要だ。

 これからの人間に必要とされる能力はAIが多数選出した意見から「良いモノを選ぶセンス」、出てきた結果を判断する「見識」「識別眼」「時代を見る力」だ。人間はAIに頼りっきりではなく、もっともっと、勉強しなければいけなくなったということだ。

●=「石」の下に「乙」

spot_img
Google Translate »