JR米坂線 「住民の足」確保に強い要望

JR米坂線 22年に豪雨被害、4分の3で運休続く

小白川付近の橋が崩落した影響で線路は寸断された=山形県飯豊町

山形県米沢市と新潟県村上市を結ぶJR米坂線は、2022年8月の豪雨による被害で橋が崩落するなどの影響で、約4分の3区間が長期運休。通学で利用する人々や観光客は不便を強いられている。現状を報告する。(福島支局・長野康彦)

少子高齢化で安定運営厳しく

山形・新潟両県対応に温度差

米沢駅の改札口を入ると停車中の山形新幹線の車両が目に飛び込んでくる。一方、米坂線の乗り場はホームの端。2両編成のディーゼル車両がポツンとたたずんでいた。10時29分発の列車には乗客が20人ほど。朝夕の一部を除いて全列車ワンマン運転となっている。

米坂線は現在、米沢駅―坂町駅(新潟県村上市)の90㌔全区間のうち、米沢駅から今泉駅(山形県長井市)までの23㌔区間のみの運行となっている。今泉駅から先、坂町駅まではバスで代行運転を行っている。

今泉駅で代行運転バスに乗り換える人たち=山形県長井市

米沢駅を出た列車は各駅に停車しながら30分ほどで今泉駅に到着する。車窓に広がるのはのどかな春の田園風景だ。このまま坂町駅までのんびり揺られながら旅をするのがお勧めだが、現状では今泉で降りなければならない。横浜から風景写真を撮りに来たという女性は、「ずっと来たかった所です。バスに乗り換えなければならないのですね」と少し不便そうな表情を浮かべていた。駅のベンチで1人、乗り継ぎを待っていた新潟大学の男子学生は、「新潟から坂町に出て、バスに乗って来ました。豪雨災害からもう2年たつのですね」と感慨深げに話した。

同列車の加藤運転士は「バスの方が列車よりも30~40分余計に時間がかかり、お客様に若干の不便を強いている」とし、「私たちも早く復旧してほしいと思っている」と説明する。

豪雨による米坂線の被災箇所は区間中112カ所に上る。復旧費用は約86億円(山形県側約55億円、新潟県側約31億円)と見積もられ、JR東日本は単独での復旧は困難としている。両県が復旧費用の一部を負担するのか、また復旧後も安定した運営が見込まれるのか、先行きはまったく見えない。

こうした中、復旧に向けた検討会議が3月下旬行われた。JR東日本、山形県、新潟県、それに七つの沿線自治体関係者が集まり、米坂線の重要性や復旧の必要性などについて意見が交わされた。沿線自治体を代表し、路線の大部分を占める山形県から、米坂線が高校生の通学を中心に地域の生活を支える基盤になっていること、観光資源としての役割も果たしていることなど、復旧の必要性について説明がなされた。

また4月には新潟県沿線の村上市、関川村の住民らでつくる団体「米坂線早期復旧と地域活性化を考える会」(野田尚道代表)が、JR東日本新潟支社と県などを訪れ、路線の早期復旧を求める要望書と2400人余りの署名を提出。県側と早期復旧を望む思いは共有できたとしている。

米坂線に限らずローカル線の運営は厳しい。JR東日本は昨年11月、利用者の減少で採算が悪化しているローカル線34路線62区間の22年度収支状況を発表した。それによると、赤字額の合計は約648億円と前年に続き横ばい。米坂線の営業係数は2050で、これは100円の営業収入を得るのに2050円の営業費用が掛かることを意味する。利用改善が見込まれなければ巨額の費用投入となり、復旧という話どころではなくなる。

米坂線への依存度は新潟県と比べて山形県が圧倒的に大きく、両県の復旧に向けた対応には温度差がある。仮に復旧費用の面で折り合いがついても、一番問題となるのは復旧後、長期的に安定した運営が見込めるかどうかだ。利用改善を図る長期的な運行計画の作成が必要となってくる。地域住民の高齢化や少子化で人口減少傾向が続く中、利用者確保のための効果的な方策は乏しい。

山形県などは復旧への機運を高めようと今年8月に「復活絆まつり」を開催することを決定。沿線のご当地グルメの出店や、地元アーティストによるコンサートなどを行う予定にしているが、長期的な展望は見いだせずにいる。新潟県は冷静に状況判断しようとしている。長期的に安定した運営が見込まれなければ復旧もおぼつかない。上下分離方式や第三セクター方式も含め、JRと地元自治体がどう長期的な運行計画を描けるかが課題だ。

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