子供たちの体験機会確保について議論する「沖縄・離島の子どもの体験保障を考えるシンポジウム~配信技術を使った子どもの体験と交流プラットフォーム事業を通してわかったこと~」(主催=公益財団法人みらいファンド沖縄)がこのほど、那覇市内で開かれた。同法人が実施した調査や事業の報告を基に、子供の体験保障のあり方についてさまざまな立場の参加者が意見を交わした。(沖縄支局・川瀬裕也)
家庭ごとの「格差」深刻化
配信技術を活用し支援
スポーツや音楽、芸術など、子供たちが幅広い分野で学ぶことができる体験学習の場が、新型コロナウイルス禍などの影響で減少している。また、低収入や多忙などが原因で、家庭ごとに子供の「体験格差」が深刻化しているとされる。
子供たちの心身の健全な育成をサポートするための「体験の場」を提供すべく、みらいファンド沖縄は、休眠預金を活用した助成金を元に、地域企業や教育機関などと連携し、配信技術を活用し、オンラインでの楽器レッスンや、工場見学などの事業を実施した。
同法人の平良斗星副代表理事は、「(コロナ禍以降)今後の人生の選択肢になる大切な体験の場を、子供が納得しているわけでもないのに、不用意に中止してきた」ことは問題だと指摘し、事業を実施するに至ったと経緯を説明した。
一つ目のセッションでは、学生の立場でシンポジウムに参加した首里高校3年生(当時2年生)の奥間あかりさんと新里桃花さんが登壇し、同事業を通して、実際のライブ会場でのアーティストの動きを体験したり、台湾の大学のバンドサークルと交流したりする機会を得ることができたとして、奥間さんは「学生のうちにこのような経験ができたのはとても重要なことだった」と感想を語った。新里さんは、活動の中で年下の子供たちと関わるようになり、保育園や幼稚園などの職業に興味を持つようになったとして、「将来の役に立つ事業だ」と評価した。2人は実際に会場で曲を披露した。
二つ目のセッションでは、学校・コーディネーターの視点から、登壇した株式会社ハブクリエイト代表取締役の喜納正雄氏は、離島での体験格差是正のため、配信を使って一流の芸術・スポーツ指導者が石垣島の子供たちに授業を実施する事業を紹介した。またeスポーツやプログラミング、ロボットコンテストなど、IT分野でも「離島の子供たちが最前線と距離を感じないレベルの環境を準備できた」と、同事業の意義を語った。
一方で、一般社団法人沖縄キャリア教育支援企業ネットワーク理事の翁長有希氏は、民間と学校の連携の難しさについて、学校の教員側は学習指導要領などの制約の中で授業をしているため、体験学習に時間と労力を割く余裕がない場合が多いと指摘。その上で「体験プログラムの目的を(学校と)しっかりと共有することが第一ステップにつながる」とし、「この障壁を突破し、(事業を)実施した学校は、成果を実感している」と強調した。
三つ目のセッションでは、地域の視点から話し合われた。コンサルティングなどを通して沖縄の社会課題解決に取り組むケイスリー株式会社の幸地正樹代表取締役社長は、同事業で実施した沖縄の伝統芸能における子供の体験の実態調査で分かったことについて、「承継課題や担い手不足の解消などの大人の側面からではなく、子供たちの選択肢の一つとして、生活の一部に組み込めるように取り組むべき」だと主張し、「時代が変わり、子供のニーズや興味が変わっていく中で、何を変えるべきで、何を変えてはいけないのかを考え続けていく姿勢が大事だ」と語った。
このテーマについて、那覇市若狭公民館の宮城潤館長は、「公民館は学校教育ではなく、社会教育の場として、さまざまな体験ができる場を多様に準備する必要がある」とした上で、「成功体験を得た子供は、さらに多くの体験を求めるようになり、それが(承継問題などの)地域(の課題)へと還元されていくだろう」と持論を述べた。
沖縄の子供たちは、収入格差の問題に加えて、ひとり親家庭が多く、大人の代わりに家族の世話や家事を担う「ヤングケアラー」は全国調査の2倍近く存在するとされる。沖縄の未来を担うこれらの子供たちの体験格差解消を目指す取り組みは大きな役割を担っていることを改めて確認し合うシンポとなった。