国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、再生可能エネルギー熱(再エネ熱)に関するオンラインシンポジウムを開催した。再エネ熱全体についての理解を広めようと2022年度から行っているもので、今回は「再エネ熱の複合的利用」と「再エネ熱利用の採算性」の二つをテーマに、関係者が発表と総合討論を行った。(福島支局・長野康彦)
バイオマスの優位性を紹介
シンポジウムはまず、主催者を代表してNEDO新エネルギー部主幹の上坂真氏があいさつし、再エネ熱利用の普及にはまだ課題があるとして、設備導入のコスト高・低認知度・熱エネルギーの供給を担う人材不足などの問題点を挙げた。
第1部では「再エネ熱の複合的利用」をテーマに三つの事業者が取り組み内容を発表した。中部電力の子会社である株式会社シーエナジーの柘植康司営業部課長は、補助金制度と複数の再エネ熱を活用したエネルギーサービス事業を紹介し、「再生可能エネルギーの熱利用はイニシャルコストが高いが、補助金制度を活用すればライフサイクルコスト(LCC)を最小化できる」として、長野県小諸市の下水熱を利用したまちづくりや、温泉の地熱を利用して冷暖房に活用している同県諏訪市の病院の例などを取り上げた。
次に、大和ハウス工業が「風・太陽・水」をコンセプトに奈良県に建設した研修センターの事例を紹介。同社設備推進部の橋本雅主任は「大昔の人が活用していた水資源を現代の私たちが活用することは環境負荷の低減に寄与すると考え、地下水を熱源に利用したシステムの構想を行うこととした」と設計の経緯を述べ、地下水と地中熱、また太陽熱を複合的に利用したシステムの説明を行った。
続けて竹中工務店設計本部の高井啓明氏が「北陸地方の共同住宅における再エネ由来の蓄エネルギーへの取組み」を発表。富山県黒部市におけるパッシブデザインの手法を取り入れたまちづくりの事例を挙げ、集合住宅への実装は日本初となるP2Gシステムを紹介した。
第2部では「再エネ熱利用の採算性」のテーマで5人が発表を行った。太陽熱利用に関する採算性では、一般社団法人ソーラーシステム振興協会の原人志専務理事が「(償却年数には)10年程度から70年以上まで大きなばらつきがある」とし、正確な年間の日射量やシステム熱損失のデータを用いて償却年数のシミュレーションを行うことが重要と述べた。
木質バイオマスの熱利用では、一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会の矢部三雄副会長が「木質バイオマスは熱利用での利用効率が化石燃料と比べて遜色がない」ことを強調。地域の森林から残材を燃料として供給することで「森林の健全化と地域の経済活性化にも寄与できる」と説明した。また実際に役場や地域の養老施設等に木質バイオマスボイラーを導入した山形県置賜地域の事例を紹介。燃料チップの安定供給体制を構築した成功事例として各方面から注目を集めていると話した。
一方、地中熱利用の採算性に関しては、ミサワ環境技術株式会社の田中雅人常務取締役が、地中熱交換器の耐用年数が長いこと、補助金を利用しない場合の投資回収年数が最短で20年に対し、補助金を利用した場合は平均9年であることなどを解説。日本地下水開発株式会社の山谷睦営業本部企画開発部部長は、山形県にある実証施設では3年連続でネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)を達成していることなどを説明した。
最後にESCO事業による省エネ化の事例として、東海国立大学機構の山形新之介氏が岐阜大学医学部付属病院の取り組みを紹介。熱源を多重化することで「ガスの消費量を大幅に削減するとともに、基幹災害拠点病院として災害時のBCP(事業継続計画)強化にもつながった」とその有用性を説明した。
総合討論では、再エネ利用に関しては補助熱源が必要であり、何より「採算性、償却年数、回収年数」や「不確実性(気象条件、国際燃料価格)の考慮」(原氏)が重要ポイントになること、「昨今の石油価格の高騰でバイオマスの優位性が高まっている」(矢部氏)ことなどが話された。