クマの習性知って被害防止を

ヒグマフェス2023~ヒトとヒグマが生きる道~

パレスチナ自治区ガザのシファ病院内で見つかったとされる武器=11月3日に開催されたヒグマフェスの様子(写真上)。パネルを使ってヒグマ対策の告知も(同下)

近年、全国各地でクマの被害が報告されている。ヒグマの生息地である北海道でも近年、被害は増加傾向にあり、中でも市街地に出没するケースが目立っている。そこで北海道では市民にクマの習性や行動を理解してもらい、ヒグマ対策や被害を減らす取り組みとして11月上旬、「ヒグマフェス2023~ヒトとヒグマが生きる道~」を開催した。(札幌支局・湯朝肇)

“居住境目”に電気柵設置

川沿いなどの草刈りに共存の可能性

「私が5年前に住んでいた島牧村ではヒグマが住宅地に頻繁に出て騒動になったのです。そんな時、一住民として何か対策は打てないかと考え、村役場の人たちとも連携しながら、一つ一つ策を練ってきました」――こう語るのはNPO法人もりねっと北海道の吉澤茉耶さん。11月3日、札幌市内で開かれたヒグマフェスのトーカーとして参加した吉澤さんは、島牧村でのヒグマ対策に関わった経緯を1時間ほどかけて説明した。

島牧村は道南地方に位置し、人口1500人ほどの小さな町。漁業が中心だが、2018年に1頭のヒグマが連日村内に出没するという事態が湧き起こった。漁港に干してあった魚や漁に出る際の餌などが食い荒らされる被害の他、何よりも住民の生活が脅かされる危険が差し迫った。そこで吉澤さんがクマ対策に立ち上がったという。

「当時、札幌でもテレビでクマの出没がたびたび報じられたのです。私としては島牧村の出来事は単なる田舎の出来事ではない。一住民の立場から全道、全国に通じる対策を取らないといけないのではないかと思い行動を起こしたわけです」と語る。

そこで吉澤さんはまず、島牧村に籍を置きながら、ヒグマ対策に先進的に取り組んでいる500㌔離れた知床財団の短期職員として勤務し、ヒグマの習性や行動範囲などを勉強。島牧村に帰ってからは役場の職員や地域住民を巻き込みながら具体的な策を講じていった。

その一つが“居住境目”への電気柵設置だ。クマが住宅地や畑に入ってこないように山と住宅地の境目に17㌔にわたって、触れるとバチンと衝撃を与える電線を張り巡らせた。電気柵は住民が協力して管理した。また、パンフレットを作成し、ヒグマが出そうな地域や遭遇した時の注意点などを住民に周知させたという。「ヒグマ対策は誰かがやってくれるという姿勢では駄目。住民一人ひとりが連携して参加するという意識を持つことが大事」と吉澤さんは語る。以来、島牧村は“ヒグマ対策の先進地”として注目を集めるようになったという。

この日のヒグマフェスでは、吉澤さんのトーク以外に「ヒグマ対策の『観光』と『教育』の可能性」をテーマにパネルディスカッションも開かれた。ヒグマ対策の専門家である佐藤喜和・酪農学園大学教授や知床半島に位置する斜里町にある知床の北こぶしリゾートホテルに勤務する村上晴花さん、高校生時代からクマ対策として草刈りボランティア活動を行っている大友めいさんがパネリストとして参加、人とヒグマの共存という視点から可能性を探った。

その中で佐藤教授は、ヒグマが近年、住宅街に頻繁に現れる要因として、「人口減少によってこれまで地方の住宅街であったところが荒れ地となりヒグマが山から下りやすい環境になってきたことが大きい」ことを挙げ、「ヒグマが里に下りてくることができない環境をつくることを指摘。その対策の一つとして住宅街や川沿いなどではできる限りヒグマが隠れやすい場所を作らないこと。その方法として草刈りなどは有効だ」と強調する。

また、村上さんはホテルの宿泊客に草刈りを体験してもらうコースを設け、知床の自然に触れながらヒグマの習性を学ぶ機会を設けたという。一方、大友さんは高校時代に草刈りのボランティア団代を結成し、地域の人たちと一緒に毎年定期的に川辺や山沿いの草刈りを実施している。「使命感で行うというよりも地域住民との触れ合いの中でヒグマのことを話したり勉強したりするのが楽しい」と話す。

環境省などの調査によると令和5年度(10月時点で)のクマの被害人数、件数は過去最多を記録。北海道でもヒグマによる農業被害は年々増加傾向にあり、ヒグマ対策は緊急の課題になっている。住宅地・市街地への出没が頻繁になっている昨今、他人事(ひとごと)ではなく自分事としてクマ対策を認知しておくことが重要である。

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