北海道博物館「もっと!あっちこっち湿地」企画展

北海道の湿原・湿地の魅力を紹介

湿原を舞台に生きるタンチョウの剥製

「生命のゆりかご」と形容される湿原。かつて北海道には多くの湿原・湿地があった。開発の継続や温暖化の進行で数多くの湿地が消失・劣化しているものの、北海道にはまだ自然の湿原が残されている。こうした中で北海道博物館は2月25日から5月28日の長期にわたって「もっと!あっちこっち湿地~自然と歴史をめぐる旅~」をテーマに企画展を開催している。(札幌支局・湯朝 肇)

生命の多様性、環境教育の材料に

「生き物にとって重要な場所」

「この企画展は2021年7月10日から5月20日まで行うことになっていた特別展示をリメークして行うものです。というのも当時、当博物館は新型コロナウイルスによる感染症拡大で休館していました。今回は開催期間中、企画展に合わせて、幾つかの講演会や自然観察会を予定しており充実した内容になっています」――こう語るのは、同博物館で同企画を担当した学芸員の表渓太氏。

本来、この企画を21年に行おうとした背景には、同年が北海道博物館にとって前身の北海道開拓記念館から数えて開館50周年に当たること。また、世界初の国際自然保護条約であるラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)が制定されて50周年の節目を迎えていたことによる。加えて、日本の湿原の約80%が北海道にあることを鑑みてもこの企画を開催することは意義のあることであった。

展示会では湿原に生息する野鳥など多様な生き物が紹介されている

かつて湿地研究の第一人者で世界的顕彰「ラムサール賞」を2012年に受賞した故辻井達一北大教授は、「北海道は湿原の宝庫。大きな湿原ならシベリアやカナダにもいくらでもあるが、北海道の湿原の面白いところは、地形、発達様式、植物の多様性が極めて高いこと。北海道の湿原は『野外博物館』だといえる」と語っていた。さらに、「環境教育を行うのに湿原は最適な材料となる。特に子供の頃から湿原と接することで環境に対して大きな視野を持つことができる」と指摘した。

今回の企画展の構成を見ると、①世界は湿地でつながっている②湿地の生きものたち③消えゆく石狩大湿原④北海道あっちこっち湿地――の四つをテーマにしたブースから成っており、湿原の意義・魅力をふんだんに紹介。とりわけ北海道でラムサール条約に登録された湿地13カ所を列挙し、そこに生息する生き物、例えば、タンチョウやマガン、ハクチョウといった野鳥のほかにキタサンショウウオやヒメマス、イトウ、さらには幾種もの昆虫など多種多様な生物を紹介している。

そもそも湿地には、湿原はもとより湖、沼、川、干潟さらには水田などさまざまな環境が含まれる。湿地が持つ機能としては、自然の貯水池、水質の浄化に加え、洪水、水害への緩衝作用、さらには農水産物の恵みをもたらすなど、人間をはじめとして生き物に不可欠な場でもある。

同展の企画に合わせて3月5日、同博物館で開かれたミュージアム・カレッジでは「ウトナイ湖・勇払原野の野鳥と自然」をテーマに苫小牧市美術博物館の学芸員・江崎逸郎氏が同市内北部に位置するウトナイ湖と隣接する勇払原野の様子を紹介した。その中で同氏はウトナイ湖が渡り鳥の中継地になっていることを説明した。

「準絶滅危惧種のオオジシギという渡り鳥に衛星追跡装置を着けて飛来ルートを調査したところ、夏に子育てのために湿地の多い北海道にやって来たオオジシギは太平洋を飛び越え赤道を越えてオーストラリアに帰っていくことが分かりました」と語り、まさに湿地と渡り鳥が世界をつないでいると江崎氏は強調する。

この日のミュージアム・カレッジに親子で参加した札幌市内の稲陵中学校1年生の金谷蒼介さんは「昆虫に興味があって来ました。北海道にこんなにたくさんあるとはびっくりです。湿原が生き物にとって重要な場所だと感じました」とうれしそうに語った。

同企画展の期間中は、自然観察会「エゾアカガエルのラブコールを聴こう」(4月15日)、ミュージアム・カレッジ「馬が湿地ではいた靴」(4月29日)、「札幌にもいた?カワウソの話」(5月14日)などの行事が予定されている。

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