文化財の保存・修復に丹精込めて 石川県文化財保存修復工房

次世代技術者の育成にも注力

広々とした表具修復室(写真上)と、修理途中の漆工芸品の修復室(同下)

伝統文化が継承される石川県金沢市には、古文書や掛け軸などの文化財を傷みや虫食いなどから守ったり保存修復したりする工房がある。「石川県文化財保存修復工房」だ。兼六園に近い県立美術館の別棟として建てられ、6年前に移転改修された。広々とした作業スペースが確保され、修復の様子はガラス窓越しに常時見学できる。手元の細かな作業は、映像を駆使してつぶさに紹介されている。文化財の保存に丹精を込める職人たちの気質が伝わる。(日下一彦)

映像で道具の使い方を紹介

海外見学者の回復に期待も

「文化財保存修復工房」は、石川県立美術館の並びの広坂別館に設けられている施設で、移転改修とともに大規模な工房にリニューアルされた。国・県・市等の指定文化財の修復に携わり、伝統的な技術を継承するべく、若い技術者の指導、育成にも力を注いでいる。これまで国宝や重要文化財を含む500点以上を修復し、東京、京都の国立博物館や、米国のメトロポリタン、ボストンなどの有名美術館からも関係者が修復作業の視察に訪れている。

人気の見学スペースは、表具修復室と漆工芸品の修復室から成り、いずれもガラス窓越しに見学できる。ここに来ると、経年劣化で傷んでしまった文化財がどのように修復されているのか、その修復の技術や手順、ポイントがよく理解できる。修復に当たっているのは、一般財団法人「県文化財保存修復協会」の技術者たちで、掛け軸や屏風(びょうぶ)、古文書などの表具担当者13人、漆工芸品担当2人で、「現状維持修理」が基本。欠落した絵の復元や漆の塗り直しは、やっていない。

漆工芸品の修復室では、ちょうど福井県南越前町の中村家が所蔵する前田家婚礼調度品の「かつら置台」(重要文化財)の修理が行われていた。漆製品は乾燥や紫外線に弱いので、修理中の保湿、使用した漆の乾燥などに注意を払うよう、ボードに職人間の伝達事項が記入されている。見学者についても「修理品を固化するための漆風呂に入れている場合があり、その時は見れないこともあります」との注意書きが記されている。

一方、広々とした表具修復室では、50歳代の職人さんが畳3枚ほどの大きなテーブルに、古文書を広げて文面に見入っていた。修復箇所の確認だろうか。奥のテーブルでは若い女性が細かな手作業に集中していた。ガラス窓越しとはいえ保存修理に取り組む姿を間近にすると、根気のいる作業だと改めて感じ、頭の下がる思いがした。窓の手前には大小幾種類もの小刀や糊(のり)を塗る刷毛(はけ)が並び、工程によってこれらの道具を丁寧に使い分けていることがうかがえる。

道具の使い方が分かるのは、パネルタッチ式のディスプレーだ。映像は掛け軸と古文書の二つの作業に大別され、「剥落(はくらく)止め」「総裏打ち」「虫損のつくろい」など七つの項目が紹介されている。映像はクリアで細部までよく分かる。時間は2分から3分間程度だ。

それぞれ大変な作業だが、映像の中で年中行事の「寒糊炊き」に心引かれた。修復に欠かせない糊を精製する作業で、こちらも職人たちの長い時間をかけた熱意がこもっていた。大寒の時期に清水が湧き出ている兼六園内の「金城霊沢(きんじょうれいたく)」で、その水をくんで糊炊きする。雑菌が少なく、腐らないと言われ、作業には欠かせない。金沢では毎年7月の氷室開きに、この水でお茶をたてて神前に供え、お茶会で振る舞う風習が続いている。

糊の原料は小麦粉と水で、作業は厳寒の中、屋外でテントを張って行われている。濾(こ)しながら釜に入れ、かき混ぜながら火にかけると少しずつ糊ができてくる。炊き上がった糊を甕(かめ)に移し、保管する。映像には年ごとの古甕が並んでいる。数日後、フタを開くと、表面は黴(かび)で覆われている。それを丁寧に取り除き、色、固さ、匂いなどを記録し、さらに同霊沢の水を張る。毎年水替えして、7~10年寝かせて、初めて使用できるという。こうして掛け軸や巻紙の裏打ちに使われている。

同工房の来館者はコロナ前にはJRがツアーを組んだり、海外からのグループも訪れ、2019年には年間3万人を超えた。自治体が運営する国内唯一の修復施設として、認知度が高まってきた矢先、コロナ禍で客足が減った。県では今後の回復に期待している。

見学は午前9時30分~午後5時、問い合わせ=電話076(221)8810。休館日は年末年始のみ、入館は無料となっている

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