書評の最新記事

最新記事一覧

『スパルタ』長谷川岳男著 古代ギリシアの強国の実態【書評】

古代ギリシア世界の一方の雄だったスパルタは「スパルタ教育」で知られる。日本では明治初期、この都市国家の名が伝わった。虚弱な男子は崖に捨てられた。30歳まで教育が続く。20歳~60歳の男は毎日の晩餐(ばんさん)が共同で行われた。

『ハンス・フォン・ビューロー』アラン・ウォーカー著 19世紀、ピアニスト・指揮者で活躍【書評】

ようやく我々は、本書によって、19世紀の音楽界を闊歩(かっぽ)したハンス・フォン・ビューロー(1830~94年)の全体像を掌握(しょうあく)することができる。ビューローは、ピアニスト、また指揮者として生涯3000回以上のコンサートを開いた。しかもコンサートにおいて自分の目の前に譜面を開かなかった。

『新編 空を見る』文・平沼洋司、写真・武田康男 魂の栄養になってきた大空 【書評】

著者は気象庁に勤務し、各地の気象台で観測と予報の仕事をしてきた気象学者。本書は、「空の写真家」武田氏の美しい写真の数々と共に、さまざまな気象現象について語ったフォト・エッセー。

『政治家の収支』鮫島浩著 金銭欲よりは権力欲が強い【書評】

「政治家の収支」とは、金銭を含む政治家の盛衰、といったものだ。首相・閣僚や国会議員だけでなく、知事や県会議員なども含まれる。霞が関の官僚も登場する。政治家は贅沢(ぜいたく)には無関心だ。小沢一郎などは、居酒屋チェーン店に普通に足を運んでいた。

『埼玉クルド人問題』石井孝明著 西欧の失敗を繰り返すな【書評】

再選したトランプ米大統領が、「多様性・公平性・包括性(DEI)」をはじめとする行き過ぎたリベラル政策にブレーキをかけている。日本政府は西欧より遅れてDEI政策を推進しているだけでなく、移民や外国人の問題を批判すれば「差別主義者」とレッテル貼りされる風潮がある。

『ほったらかし快老術』 折茂肇著 90歳現役医師が実践【書評】

80歳以上の「長寿期」に入ると老いは一気に進むと言われいる。私もその年になり、どこも体が悪くなく、四十数年間も続けていた武道の稽古をちゃんとこなし、70歳定年で教員を辞めても、26歳以来の仕事の延長として町のカルチャーセンターなどで教え続けている。

『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』 五木寛之著 人を生かす本物の言葉  【書評】

92歳の著者が思い出に残る人とその言葉をつづっている。若い頃、一緒に講演した小林秀雄は、ふと「人間は生まれた時から、死へ向かってとぼとぼ歩いていくような存在です」とつぶやいたという。

『メトロポリタン美術館と警備員の私』パトリック・ブリングリー著 美しい場所、簡単な仕事【書評】

著者はニューヨークにあるメトロポリタン美術館で10年間警備員として勤務し、その豊富な体験からこの物語が生まれた。芸術の前で時間を過ごすということがどういうことなのか。人生との関わりからその価値と恩恵を示してくれた作品だ。

『ドイツ文化読本』坂本貴志著 音楽・文学の巨匠など紹介【書評】

ドイツ文化といえば、何と言っても、べートーヴェン(1770~1827年)の『第九交響曲』(1824年)である。ベートーヴェンが構想から約30年、難聴などの辛苦を経た末の傑作である。

『ルポ・アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版』上野庸平著  「東洋発の精神運動」と好感 【書評】

幸福の科学の取材でウガンダへ行き、たまたま出会った天理教の日本人に、ウガンダ人を宗教に結び付けるのは「結局お金ですよ」と身も蓋(ふた)もない話を聞かされたり、ブルキナファソで偶然アフリカ人の真如苑信者と出会ったり。本書は著者がアフリカ各国を訪ねて出会った日本の新宗教の信者から見聞きした内容をまとめたルポである。

『ことばの番人』髙橋秀実著 漢字があるから校正もある 【書評】

ノンフィクション作家の著者がベテラン校正者を取材し、校正とは何か、日本語とは何かを解き明かしている。『古事記』編纂(へんさん)の太安万侶(おおのやすまろ)も、上巻の序に「(以前に書かれた)『旧辞』と『先紀』の誤りを正す」とあるように、天皇の命で過去の文献を校正したのが真相だという。

『料理からたどるアガサ・クリスティー』カレン・ピアース著 個々の「レシピ」具体的に紹介 【書評】

本書は、「ミステリーの女王」アガサ・クリスティー(1890~1976)の関係書と全く異なり、「料理」に関する本である。イギリス料理なんぞ、この世に存在するのか、というのが我々日本人の常識。

『こんなにひどい自衛隊生活』小笠原理恵著 愛国心の搾取をやめよ

「何一つまともに修理すらできない組織に国を守るなんて大きなことができるはずがない」辛辣(しんらつ)ではあるが、本書に引用された、自衛隊をいずれやめようと考えている現職隊員の言葉である。

『文学傑作選 鎌倉遊覧』藤谷治編 住民たちの見ていた古都の姿【書評】

古都鎌倉はどのような町なのか。ガイドブックに紹介されているが、それは観光でやって来る人たちのための案内。名所旧跡や食事処(どころ)の紹介が中心で、観光産業の発展と連結し、それとは関係がない所は取り上げられない。

『五木寛之傑作対談集Ⅰ』五木寛之著 読書家だったアリ氏と長嶋氏【書評】

本書は、作家の五木寛之の対談集だが、文学者だけではなく運動選手などのユニークな相手が選ばれていて驚きを与えられる。例えば、ボクシングのモハメド・アリ。アリ氏は必ず遠征に行くときは本を持っていくほどかなりの読書家で、社会問題に対しても鋭く切り込み、かなり饒舌(じょうぜつ)だ。

『野生のうたが聞こえる』アルド・レオポルド著 倫理は人間と自然の間にも【書評】

 本書は環境倫理学の古典的な著作で、野生生物生態学者であり森林官であった著者が、「土地倫理」という概念を提示したことで、環境保全運動に関心を持つ人々の必読書となった。

『この銃弾を忘れない』マイテ・カランサ著 内戦捕虜の父を助けた実話【書評】

本書の舞台は、1938年のスペイン。実は、1936年7月18日払暁(ふつぎょう)、スペイン全土の50カ所の陸軍駐屯地で共和国政府への軍事蜂起が起こった。これに対して、市井の市民や労働者たちが果敢に武力抵抗し、なんと20日には、マドリードとバルセロナの両駐屯地、数日後バレンシアの駐屯地を制圧した。この三大都市の陥落を引き起こした反乱軍の失敗のため、内戦となった。

『私の同行二人』黛まどか著「生きることは、歩くこと」【書評】

2017年の初遍路の時から、著者は生涯3度の遍路を決めていたという。父のため、母のため、そして自分のため。四国だけでなく、スペインのサンティアゴ巡礼道800㌔、韓国のプサン―ソウル500㌔、熊野古道も歩き、しばらく歩かないと、そわそわと体の芯が定まらなくなるという。「生きることは、歩くこと」なのである。今回は八十八霊場に加え別格二十霊場も巡拝し、その距離1600㌔

『すごい短歌部』木下龍也著 キャッチコピー風の特色光る 【書評】

文芸誌『群像』に短歌を扱った連載「群像短歌部」がある。その第1回から第12回までを収録してできた本だ。テーマを第1回は選者の著者が決め、第2回以降は編集部が決めて投稿を募集し、その中から選んだ作品について論評している。

『魂の教育 よい本は時を超えて人を動かす』森本あんり著 死別した母を通して働いた神【書評】

神学者にしてトランプ大統領圧勝の背景も的確に論じる幅広い教養人の読書遍歴。学生時代にガールフレンドに誘われて教会に行ったことで信仰を持つようになったという、俗から聖への魂の遍歴も語られている。

『帝国で読み解く近現代史』岡本隆司・君塚直隆/対談 複雑な世界史の全容に迫る【書評】

「皇帝が支配する国」というのが帝国の定義だ。国王ではなく皇帝。皇帝は国王を超えた存在だ。

『限界の国立大学』朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班著 嘆かわしい最高学府の劣化【書評】

天然資源の少ない日本では、国を挙げて、教育・研究に予算を投じて優秀な人材を育てる必要性が指摘されてきた。こうして、「科学技術立国」を掲げてきたが、大学などの高等教育への公財支出は、対GDP比で見ると、OECD諸国の中で最低水準の状況が長く続いている。

『マチズモの人類史』イヴァン・ジャブロンカ著 家父長制から「公平な」男性へ【書評】

「男はあらゆる闘争に挑んできたが、男女の平等のために闘わなかった。男はあらゆる解放を夢見たが、女の解放は夢見なかった」――なんとも論駁(ろんばく)不能なこの二つの文章は、本書の第1頁の「序文」の1行目と続く2行目に述べられている。

『鷗外の花』青木宏一郎著 花が家族と共にあった人生 【書評】

森鷗外は小説家、翻訳家であり、陸軍軍医でもあった。睡眠時間を削る生活によって偉業を成し遂げてきたが、ランドスケープガーデナーの著者が注目したのが、いかにして心の鬱屈(うっくつ)を解消し、心の安らぎを得てきたのか、という問題だった。

『科学史家の宗教論ノート』村上陽一郎著 信仰の根底にあるのは「愛」【書評】

学生時代からのカトリック信徒で、科学史家、科学哲学者の著者が、自身の信仰を踏まえながら、宗教と科学や宗教と国家など今日的な課題を論じている。

『死の瞬間』春日武彦著 人体や葬送巡る文化的考察【書評】

『死の瞬間』となっているが、「死」全般について書かれた本だ。新聞の死亡記事。「この人はとっくに亡くなっていたと思っていたのに……」と驚くことが多い、と著者は言う。「まだ生きていたんだ……」という感覚。

『「謎」で巡る神社の歩き方』神社に秘められた日本の歴史【書評】

1月2日、奈良の春日大社で、朝夕の神前への供えが奉仕できるよう祈願する「日供始式(にっくはじめしき)」が行われ、中門下で興福寺の貫首らが唯識論を奉唱し、春日大社の摂社・若宮神社で般若心経を読経した

『道徳的人間と非道徳的社会』政治とは良心と権力との衝突 ラインホールド・ニーバー著【書評】

ラインホールド・ニーバー(1892~1971年)は、20世紀の米国を代表する神学者で、キリスト教現実主義の立場から政治と倫理を巡る相克に関して独自の考察を展開した

『会社はあなたを育ててくれない』職業人生を選択する時代に【書評】

今の日本は、働く社会人にとって選択の回数が増えた社会だと著者は指摘する。新卒から定年まで一つの会社で働き続けることが当たり前でなくなり、就活と定年退職以外に転職、副業、学び直しなど、職業生活における選択を何度も経験する人が少なくない

『ラテンアメリカ文学を旅する58章』時代網羅した作家・作品論【書評】

昨年7月、ラテンアメリカ文学の一大旋風が巻き起こった。コロンビアの作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』(鼓直訳)の新潮文庫である。発売3カ月で33万部を超えたとNHKまでもが報じた。さらに、嬉(うれ)しいことにガルシア・マルケス以外の多種多様な翻訳小説が書店に賑(にぎ)わいを見せるようになっている
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