書評の最新記事

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『この銃弾を忘れない』マイテ・カランサ著 内戦捕虜の父を助けた実話【書評】

本書の舞台は、1938年のスペイン。実は、1936年7月18日払暁(ふつぎょう)、スペイン全土の50カ所の陸軍駐屯地で共和国政府への軍事蜂起が起こった。これに対して、市井の市民や労働者たちが果敢に武力抵抗し、なんと20日には、マドリードとバルセロナの両駐屯地、数日後バレンシアの駐屯地を制圧した。この三大都市の陥落を引き起こした反乱軍の失敗のため、内戦となった。

『私の同行二人』黛まどか著「生きることは、歩くこと」【書評】

2017年の初遍路の時から、著者は生涯3度の遍路を決めていたという。父のため、母のため、そして自分のため。四国だけでなく、スペインのサンティアゴ巡礼道800㌔、韓国のプサン―ソウル500㌔、熊野古道も歩き、しばらく歩かないと、そわそわと体の芯が定まらなくなるという。「生きることは、歩くこと」なのである。今回は八十八霊場に加え別格二十霊場も巡拝し、その距離1600㌔

『すごい短歌部』木下龍也著 キャッチコピー風の特色光る 【書評】

文芸誌『群像』に短歌を扱った連載「群像短歌部」がある。その第1回から第12回までを収録してできた本だ。テーマを第1回は選者の著者が決め、第2回以降は編集部が決めて投稿を募集し、その中から選んだ作品について論評している。

『魂の教育 よい本は時を超えて人を動かす』森本あんり著 死別した母を通して働いた神【書評】

神学者にしてトランプ大統領圧勝の背景も的確に論じる幅広い教養人の読書遍歴。学生時代にガールフレンドに誘われて教会に行ったことで信仰を持つようになったという、俗から聖への魂の遍歴も語られている。

『帝国で読み解く近現代史』岡本隆司・君塚直隆/対談 複雑な世界史の全容に迫る【書評】

「皇帝が支配する国」というのが帝国の定義だ。国王ではなく皇帝。皇帝は国王を超えた存在だ。

『限界の国立大学』朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班著 嘆かわしい最高学府の劣化【書評】

天然資源の少ない日本では、国を挙げて、教育・研究に予算を投じて優秀な人材を育てる必要性が指摘されてきた。こうして、「科学技術立国」を掲げてきたが、大学などの高等教育への公財支出は、対GDP比で見ると、OECD諸国の中で最低水準の状況が長く続いている。

『マチズモの人類史』イヴァン・ジャブロンカ著 家父長制から「公平な」男性へ【書評】

「男はあらゆる闘争に挑んできたが、男女の平等のために闘わなかった。男はあらゆる解放を夢見たが、女の解放は夢見なかった」――なんとも論駁(ろんばく)不能なこの二つの文章は、本書の第1頁の「序文」の1行目と続く2行目に述べられている。

『鷗外の花』青木宏一郎著 花が家族と共にあった人生 【書評】

森鷗外は小説家、翻訳家であり、陸軍軍医でもあった。睡眠時間を削る生活によって偉業を成し遂げてきたが、ランドスケープガーデナーの著者が注目したのが、いかにして心の鬱屈(うっくつ)を解消し、心の安らぎを得てきたのか、という問題だった。

『科学史家の宗教論ノート』村上陽一郎著 信仰の根底にあるのは「愛」【書評】

学生時代からのカトリック信徒で、科学史家、科学哲学者の著者が、自身の信仰を踏まえながら、宗教と科学や宗教と国家など今日的な課題を論じている。

『死の瞬間』春日武彦著 人体や葬送巡る文化的考察【書評】

『死の瞬間』となっているが、「死」全般について書かれた本だ。新聞の死亡記事。「この人はとっくに亡くなっていたと思っていたのに……」と驚くことが多い、と著者は言う。「まだ生きていたんだ……」という感覚。

『「謎」で巡る神社の歩き方』神社に秘められた日本の歴史【書評】

1月2日、奈良の春日大社で、朝夕の神前への供えが奉仕できるよう祈願する「日供始式(にっくはじめしき)」が行われ、中門下で興福寺の貫首らが唯識論を奉唱し、春日大社の摂社・若宮神社で般若心経を読経した

『道徳的人間と非道徳的社会』政治とは良心と権力との衝突 ラインホールド・ニーバー著【書評】

ラインホールド・ニーバー(1892~1971年)は、20世紀の米国を代表する神学者で、キリスト教現実主義の立場から政治と倫理を巡る相克に関して独自の考察を展開した

『会社はあなたを育ててくれない』職業人生を選択する時代に【書評】

今の日本は、働く社会人にとって選択の回数が増えた社会だと著者は指摘する。新卒から定年まで一つの会社で働き続けることが当たり前でなくなり、就活と定年退職以外に転職、副業、学び直しなど、職業生活における選択を何度も経験する人が少なくない

『ラテンアメリカ文学を旅する58章』時代網羅した作家・作品論【書評】

昨年7月、ラテンアメリカ文学の一大旋風が巻き起こった。コロンビアの作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』(鼓直訳)の新潮文庫である。発売3カ月で33万部を超えたとNHKまでもが報じた。さらに、嬉(うれ)しいことにガルシア・マルケス以外の多種多様な翻訳小説が書店に賑(にぎ)わいを見せるようになっている

『別れを告げない』ハン・ガン著 現代の背景を成す受難劇【書評】

「雪はほとんどいつも、非現実的なものに感じられる。速度のためか、美しさのゆえだろうか? 永遠と同じくらいゆっくりと雪片が宙から落ちてくるとき、重要なことと重要でないこととが突然、くっきりと区別される」

『瀬戸内海国立公園の父 小西 和』山本一伸著 日本人の目を海に向けさせた【書評】

瀬戸内海国立公園は昭和9年に日本で初めて国立公園に指定された。当初は備讃瀬戸(香川・岡山県間の海域)に点在する島々とそれを望む陸地だったが、その後、明石・紀淡・鳴門・関門・豊予の5海峡に囲まれた1府10県に拡大され、日本最大の国立公園となる。それを強力に推し進めたのが香川県出身の政治家で立憲民政党幹事の小西和(かなう)で、朝日新聞記者時代に著した『瀬戸内海論』から23年後だった。本書は小西の評伝で、著者は小西が生まれたさぬき市の学芸員。

『ケルト人の夢』マリオ・バルガス=リョサ著 アイルランドの人権活動家描く【書評】

12世紀に英国の植民地とされたアイルランド。第1次大戦期、英議会で成立した「アイルランド自治法」の実施が、大戦終了まで棚上げされてしまった。またもや英国に裏切られたといきり立ったアイルランド共和主義同盟(IRB)最高委員会で1916年4月24日の復活祭蜂起が決定された。それにしても、武器調達はいかに。

『笑って死ねる人・生・論』中山達樹著 人生のヒントが満載【書評】

「私は、ほとんどいつも白いスーツを着ています。ズボンも靴も白です。この真っ白ないでたちの私に対し、『怪しい』という印象を抱く人も多いでしょう」

『感じる万葉集』 上野誠著 当時の情景感じるオノマトペ【書評】

学生時代、犬養孝先生に習った万葉歌を歌いながら、山の辺の道を歩いたことがある。好きだったのは、「采女の袖吹き返す明日香風 都を遠みいたづらに吹く」。都が明日香から藤原に移った寂しさを詠んだ志貴皇子(しきのみこ)の歌で、当時と同じ風に今も吹かれていると感じ嬉(うれ)しかった。

『千代國一の歌』御供平佶著 生活の実感を重視した写実詠【書評】

千代國一(ちよくにいち)は、窪田空穂(くぼたうつぼ)の創刊した「国民文学」の編集発行人を務めた歌人で、晩年には宮中歌会始の選者に選ばれた。1916年新潟県五泉市に生まれ、大倉商高(現・東京経済大学)を卒業。大倉組(大倉財閥)に入社し、戦後、財閥解体後は、新発田市にあった大倉製糸工場の復元に尽力。経営者だった。2011年永眠。

『ロベスピエール』髙山裕二著 政治論から迫る革命の主役【書評】

フランス革命(1789~1799年)前半期の主役はロベスピエール(1794年没)、後半はナポレオン(1821年没)という風に歴史は動く。本書は前半期の主役について、政治論の面から迫った著作だ。

『音楽はお好きですか?』藤岡幸夫著 指揮者目線で語るエッセー【書評】

行間から柔らかな明るい声がこぼれてくるような本。少年時代から「指揮者になりたい」との一念で突き進んできた成果がこの本となっている。

『〈弱さ〉から読み解く韓国現代文学』小山内園子著 激動の歴史に奪われた選択肢【書評】

著者は現代韓国文学の翻訳者で、よく質問されるのが、「なんで、現代韓国文学を?」という問いだったという。読んでもらいたい作品をリストアップして考えてみたところ、「〈弱さ〉を正面から描いている」という答えに至り着いた。

『女たちの平安後期』榎村寛之著 女性上位が安寧と文化を育む【書評】

大河ドラマ「光る君へ」で面白かったのは、娘の頃はか細く「仰せのままに」としか言えなかった彰子が、女院(にょいん)としての地位を得ると次第に父藤原道長に反発するようになり、ついには自分の意志を通すまでに成長したこと。平安後期は古代から中世への過渡期で、縄文時代からの女性のシャーマン性を残す古代は、女性上位の時代だったように思える。その典型が一条天皇の皇后定子や中宮彰子のサロンで、それぞれ教養のある女性たちを集め、飛鳥・奈良時代からの学びの文化を花開かせた。『枕草子』や『源氏物語』もそこから生まれたのである。

『遠藤三郎日誌』吉田曠二著 旧日本陸軍武官の在仏記録【書評】

旧陸軍中将遠藤三郎(1893~1984年)のように、戦後非武装日本の誕生に満足し、「無軍備」「非戦平和」を主張し続けた将軍は珍しい。彼は11歳から91歳まで毎日、日記を書き続けていた。本書は、彼が在仏大使館付陸軍武官として在任中(1926年9月~29年2月)のことが主に書かれた日誌である。

『ダーウィンの呪い』千葉聡著 優生政策に利用された科学【書評】

600万人以上のユダヤ人を殺害した独裁者ヒトラーは、そのゆがんだ思想を進化論で正当化したという。「人間は進化・進歩するものだ」「努力して闘いに勝ったものが生き残る」「これは自然の事実から導き出された人間社会をも支配する規範だから従え」。この進化論の考えと、「弱い者」「劣った者」は排除するべきだという差別思想や反ユダヤ主義が結び付き、ホロコーストの惨劇が起きた。

『水と人の列島史』松木武彦・関沢まゆみ編 生活を守る治水と信仰の融合【書評】

評者が農業を営む香川県では毎年6月15日、空海の誕生日に合わせて満濃池(まんのういけ)のゆる抜きが行われる。8世紀に讃岐国司が築造したが、たびたび決壊し、「百姓、恋慕スルコト父母ノ如シ」(『日本紀略』)の空海が朝廷から築池別当に任命され、修築した。当日、堤にある神野神社で、県知事や農業関係者が参加して神事を営み、水門を開ける。合わせて真言宗の神野寺(かんのじ)では護摩法要が行われ、神仏習合の行事となっている。

『チャーリーとの旅』ジョン・スタインベック著 祖国米国の土地を再発見する【書評】

どこかへ行きたいという思いは、老齢になっても収まらなかった。米国人作家の著者は、世界の多くの地域を旅してきたが、58歳になって自分の国を知らないということに気が付く。あったのは欠陥だらけの記憶で、このモンスターの土地を再発見してみようと決めた。

『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』今井むつみ著 まずは相手の話を聞くこと【書評】

人と話していて、こちらが丁寧にかみ砕いて説明しているにもかかわらず、相手がどうも理解しているように思えない、そんな経験をすることがある。著者はそれは個人個人の「スキーマ」が違うからだという。

『ジョージア中世の教会建築ガイド』ダヴィド・ホシュタリア著 もう一つのキリスト教建築【書評】

帝政ローマ時代、キリスト教に対する寛容令と弾圧が繰り返されたが、380年に国教化されると各地に大規模なキリスト教会堂が献堂された。古代ローマの世俗建築である裁判所や集会所に使われたバシリカ形式を採用し、全体が長方形、長い身廊(しんろう)、左右の壁側に側廊(そくろう)、一番奥に祭壇があるバシリカ式教会堂である。

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