書評の最新記事

最新記事一覧

『文芸記者がいた!』川口則弘著 文学史の裏にいた曲者たち【書評】

文芸記者とは、文字通り文芸を担当する記者のこと。こういう本は珍しい。

『やがてロシアの崩壊がはじまる』石井英俊著「プーチンの歴史観」に対抗【書評】

足掛け3年にわたって続いているロシアのウクライナへの軍事侵攻は、プーチン大統領の「偉大なロシアの復活」という野望が一因にある。同氏はウクライナとロシアは歴史的に一体、つまりウクライナという国はそもそも存在せず、もともとすべてロシアだと言うのだ。

『おもしろくてためになる植物観察の事典』大場秀章監修 恩恵もたらす仕掛けの数々【書評】

本書で観察の報告をしているのは植物学者ら8人で、83編の特別レクチャーを収録。専門家だけあって観察の仕方が徹底している。それぞれの研究から生まれた成果を多くの人たちに共有してもらおうと編集された。

『牛乳から世界がかわる』小林国之著 自分の価値観に合う酪農を【書評】

カロリーベースで日本の食料自給率は38%だが、飼料自給率は26%でしかない。これがウクライナ戦争による肥料や飼料の高騰で、北海道の大規模酪農家を苦境に追い込んだ。従事者の減少を規模拡大でカバーしてきたことが裏目に出たのだ。農業人口全体が減少している日本にとって、深刻な問題である。

『漫画を描く』里中 満智子著 分野の地位向上に捧げた半生【書評】

今やマンガは日本の文化を代表する分野として認知されている。だが、かつてマンガは教育的に害を及ぼすものとして排斥された時期があった。マンガを読むと、学校の勉強がおろそかになるとみられていたのだ。

『ニッポン獅子舞紀行』稲村 行真著 人と自然との付き合いの原点【書評】

7000以上の地域で継承されている獅子舞は日本最多の民俗芸能だが、この20年で1000以上が消滅したという。東京藝大大学院映像研究科所属の著者は、全国の博物館や郷土資料館を巡るうち、獅子頭を凝視している自分に気付き、2018年から獅子舞の研究を始めた。そこから日本人の実像が浮かび上がってくる。

『日本人が知らない世界遺産』林菜央著  今も危険に直面する文化財【書評】

第2次大戦期、ヒトラーは制圧した国から強奪した美術品や絵画をオーストリアの山中の掘削トンネルの中に秘匿(ひとく)した。スターリンも強奪した絵画などを祖国に持ち込んだ。

『中国を見破る』楊海英著 中国人の本質に関わる宿痾【書評】

日本人の中国に関する理解は、長い間、漢籍によって形成されてきた。『大学』『中庸』『論語』をはじめとする四書五経はその基礎を作ったが、著者はこれについて疑問を投げ掛ける。それで中国の本質を知ることができるのかと。日本人が理解した中国は文献を基に日本流に解釈し直され、真実とは全く異なったものだと主張する。それが島国からみた見方だとすれば、著者の見方はまったく違った位置からだ。

『葬儀業』玉川貴子著 社会とともに変化する「儀礼」【書評】

葬儀業界の近年の変化を経済社会学的に論じたもので、いわゆる終活本ではない。しかし、業者の実態を理解することは、自分の葬儀を考える参考にもなる。

『アショーカ王伝』定方晟訳 仏教との交わりをドラマ的に【書評】

アショーカ王は紀元前3世紀のインド・マウリヤ朝の王で、仏教を保護し、おびただしい数の仏塔を建てたことで知られている。仏教経典の中で第1の伝記はブッダ伝だが、第2の地位はアショーカ王伝に与えられてもよいと、仏教学者の著者は位置付ける。

『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス著 架空の中南米の寒村が舞台【書評】

『百年の孤独』は、1982年ノーベル文学賞受賞者、コロンビアの作家ガブリエル・ガルシア=マルケス(1928~2014年)が「自分の最高作」と呼んだ作品である。

『蔦屋重三郎と江戸メディア史』渡邊大門著 出版人としての生涯を記述【書評】

芸術家について書かれた本は多いが、出版人について書かれた本は少ない。 この本は、出版人蔦屋(つたや)重三郎について記述したもの。蔦屋は1750年から1797年までを生きた人物。出版人だから、芸術家に比べて情報が少ない。間接情報を突き合わせて蔦屋の生涯を記述したものだ。

『シモーヌ・ヴェイユ』冨原 眞弓著 身体を媒介とした清冽な思索【書評】

「不幸について語るべきなにかを知るひとは語るすべを知らず、語るすべを知るひとは不幸を知らない」。シモーヌ・ヴェイユ(1909~43年)の言葉だが、著者はそう書いた人のことを「不幸を知ってなお、語るすべをうしなわず(あるいはとりもどし)、語り続けた稀有な人間のひとり」と形容する。

『戦国時代を変えた合戦と城』千田嘉博・平山優著 城郭から見える天下泰平【書評】

武士を束ねていた室町幕府は崩壊し、京都の朝廷もただ右往左往するだけで、中央政権の求心力は急降下した。古代から宗教的権威であった大寺院も焼き打ちされ、こうした恒常的な戦時体制を背景に台頭した戦国大名が抗争を繰り返していた。この時代に日本全国に2万5000とも3万ともいわれる城が築かれていたという。

『高倉健の図書係』谷充代著 読書が育んだ名優の生きざま【書評】

俳優の高倉健さんが亡くなってから10年になる。本書は、その高倉健さんがかなりの読書家であったこと、本の言葉を大切にしていたこと、苦しい時に繰り返し読んだ本が12冊紹介されている。

『死とは何か』中村圭志著 死生観を宗教ごとに解説【書評】

高度に発達したホモ・サピエンスの脳は、人が死んだという不可逆的な生理的事実は認知できるが、別の(指向的構えを持つ)認知プログラムのため、頭のどこかで故人を生きているかのように扱っているという。だから、仲間が集まった葬儀の席で、「これであいつも喜んでいるさ」と口にしたりする。その脳が、来世や地獄・極楽、輪廻(りんね)転生などの観念を生み、宗教を誕生させた。本書は、世界の主な宗教ごとにその様相を簡潔に解説している。

【書評】『サンスクリット入門』赤松明彦著 空海も学んだ「完全な言語」

飛鳥時代から奈良時代までの仏教はまるで学問で、例えば唯識(ゆいしき)は深層心理学に近い。東大寺などの南都六宗の寺は大学の学部に似て、若き日の空海はインド僧もいる大安寺で暮らしながら、華厳宗を学びに東大寺へ、法相宗を学びに薬師寺へと出掛けていた。当の大安寺は三論宗の寺である。日本人は仏教を介して、初めて学問に目覚めたと言えよう。

【書評】『「天皇学」入門ゼミナール』所功著 日本と「私」を知る手掛かり

「天皇を知ることは日本と日本人を知る重要な手掛かり」という著者の言のその先に、「私を知る」手掛かりも見えてくる。 日本人と日本社会の根幹をなす宗教史を略記しよう。縄文時代からのアニミズムに基づき地域や部族、職業の神々を奉じてきた諸神道を、皇室祭祀(さいし)を中心にまとめたのが3世紀、崇神(すじん)天皇による天社(あまつやしろ)と国社(くにつやしろ)の和合である。これにより家族国家としての日本の基本が形成された。そのため崇神天皇は神武天皇と同じ称号を与えられている。

【書評】『シェイクスピア』福田恆存著 作品から迫る人生の価値観

本書は著者が翻訳したシェイクスピアの19作品の解題を収録。テキストの成立、作者が使用した資料、作品の内容についての解説など。シェイクスピアのドラマは36作品あるが、著者が訳したのは19作品。その全体で一つの流れを見せてくれる。

【書評】『47都道府県・文学の偉人百科』森岡浩著 平安時代からの作家の足跡

実に変わった内容の本である。文学者を都道府県別に分類して、まとめて紹介しているからである。この種のテーマの本としては本邦初ではないか。本書で取り上げた文学者は、平安時代から現代までの小説家、推理作家、SF作家、童話作家、翻訳家、詩人、歌人、川柳作家、ノンフィクション作家と多岐にわたっている。

【書評】『レコンキスタ』黒田祐我著 スペイン生んだ戦争と平和

711年、北アフリカから1万2000人のイスラーム勢力、翌年、さらに1万5000人の後続部隊がスペイン南端に侵入した。714年までに、イベリア半島のほぼ全域を支配下に収めた彼らは、その領土をアンダルスと命名し、コルドバを首都と定めた。

【書評】『歴史学はこう考える』松沢裕作著 面白さが分かる本

歴史家(歴史学者)が「歴史の世界」の内側について書いた本だ。「歴史家」と「歴史学者」を比べると、歴史家の方が重々しいようだ。

【書評】『遊牧民、はじめました。』相馬拓也著 調査は波乱とトラブルの連続

本書は人文地理学、生態人類学を専門とする著者が、研究者として駆け出しだった20代後半から30代前半、モンゴルの大草原で過ごした日々をつづった旅物語だ。目的は民族誌を記すためのフィールドワーク。

【書評】『医学問答』仲野徹・若林理砂著 基本の学術で東・西洋に違い

評者は先月、術後癒着性腸閉塞で10日間入院した。15年前の胃がん手術で、残った胃と腸を縫い合わせた箇所が腹壁に癒着したから。メスなど異物が入ると人体には修復する作用があり、それが癒着をもたらすという。術後、飲み続けているのが大建中湯(だいけんちゅうとう)という胃腸の動きを良くする漢方薬。病気をピンポイントで治す西洋医学を東洋医学がサポートする形で、近年増えているらしい。

【書評】『日韓同時核武装の衝撃』鄭成長著 核使用できない状況を作る

韓国では独自の国防策として、核武装に賛成する世論が急増しているという。

【書評】『過去と思索(3)』 ゲルツェン著 西欧派とロシア派の対立語る

自伝文学の大傑作。この分冊では1840年5月、内務省に勤務すべくペテルブルクに赴いた時から、47年1月国外に旅立つ時までの7年間がつづられている。その間、父親が亡くなり、親族間の出来事を語り、外国への旅立ちを準備する。著者、28歳から35歳までの時期だ。

【書評】『希望ある日本の再生』 小名木善行著 国家立て直しは建国の精神で

他人の批判ばかりを聞かされても、良い気分にはならないものだ。同じように、何かにつけて相手が悪いと決めつけていても何も改善されることはない。これは政府に対する野党や国民の姿勢についても当てはまる。不平不満がまん延する日本社会への処方箋となるのが本書だ。

【書評】『平安時代の男の日記』倉本一宏著 記録する文化は権力の源泉

NHK大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を務めている著者は、ドラマは恋愛と史実のパートから成り、前者は全くの虚構で、「あんなことはあり得ない」と進言したが、聞いてもらえなかった。後者の、政治や皇位継承はほぼ著者の意見通りで、それは「古記録という貴族の漢文の日記」によったと。

【書評】『西郷従道』小川原 正道著 元勲の実力備えた隆盛の弟

西郷と言えば隆盛が有名だ。西郷従道は隆盛ほど知られていない。16歳年少の弟は、時に地味な役割を引き受けざるを得ない。従道は「つぐみち」と呼ばれるが、本人は「じゅうどう」と名乗った。

【書評】『シベリヤ物語』長谷川四郎著、堀江敏幸編 抑留生活で得た文学の題材

著者は作家、エッセイスト、詩人として知られていたが、その生涯の中で最も大きな体験は、シベリヤに抑留されたことだったようだ。1945年8月、著者は国境地帯の監視哨にいて、ソ連の侵攻によって潰走(かいそう)したが、捕虜となってチチハルの収容所に入れられた。

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