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書評

【書評】『サンスクリット入門』赤松明彦著 空海も学んだ「完全な言語」

飛鳥時代から奈良時代までの仏教はまるで学問で、例えば唯識(ゆいしき)は深層心理学に近い。東大寺などの南都六宗の寺は大学の学部に似て、若き日の空海はインド僧もいる大安寺で暮らしながら、華厳宗を学びに東大寺へ、法相宗を学びに薬師寺へと出掛けていた。当の大安寺は三論宗の寺である。日本人は仏教を介して、初めて学問に目覚めたと言えよう。

【書評】『「天皇学」入門ゼミナール』所功著 日本と「私」を知る手掛かり

「天皇を知ることは日本と日本人を知る重要な手掛かり」という著者の言のその先に、「私を知る」手掛かりも見えてくる。 日本人と日本社会の根幹をなす宗教史を略記しよう。縄文時代からのアニミズムに基づき地域や部族、職業の神々を奉じてきた諸神道を、皇室祭祀(さいし)を中心にまとめたのが3世紀、崇神(すじん)天皇による天社(あまつやしろ)と国社(くにつやしろ)の和合である。これにより家族国家としての日本の基本が形成された。そのため崇神天皇は神武天皇と同じ称号を与えられている。

【書評】『シェイクスピア』福田恆存著 作品から迫る人生の価値観

本書は著者が翻訳したシェイクスピアの19作品の解題を収録。テキストの成立、作者が使用した資料、作品の内容についての解説など。シェイクスピアのドラマは36作品あるが、著者が訳したのは19作品。その全体で一つの流れを見せてくれる。

【書評】『47都道府県・文学の偉人百科』森岡浩著 平安時代からの作家の足跡

実に変わった内容の本である。文学者を都道府県別に分類して、まとめて紹介しているからである。この種のテーマの本としては本邦初ではないか。本書で取り上げた文学者は、平安時代から現代までの小説家、推理作家、SF作家、童話作家、翻訳家、詩人、歌人、川柳作家、ノンフィクション作家と多岐にわたっている。

【書評】『遊牧民、はじめました。』相馬拓也著 調査は波乱とトラブルの連続

本書は人文地理学、生態人類学を専門とする著者が、研究者として駆け出しだった20代後半から30代前半、モンゴルの大草原で過ごした日々をつづった旅物語だ。目的は民族誌を記すためのフィールドワーク。

【書評】『医学問答』仲野徹・若林理砂著 基本の学術で東・西洋に違い

評者は先月、術後癒着性腸閉塞で10日間入院した。15年前の胃がん手術で、残った胃と腸を縫い合わせた箇所が腹壁に癒着したから。メスなど異物が入ると人体には修復する作用があり、それが癒着をもたらすという。術後、飲み続けているのが大建中湯(だいけんちゅうとう)という胃腸の動きを良くする漢方薬。病気をピンポイントで治す西洋医学を東洋医学がサポートする形で、近年増えているらしい。

【書評】『レコンキスタ』黒田祐我著 スペイン生んだ戦争と平和

711年、北アフリカから1万2000人のイスラーム勢力、翌年、さらに1万5000人の後続部隊がスペイン南端に侵入した。714年までに、イベリア半島のほぼ全域を支配下に収めた彼らは、その領土をアンダルスと命名し、コルドバを首都と定めた。

【書評】『歴史学はこう考える』松沢裕作著 面白さが分かる本

歴史家(歴史学者)が「歴史の世界」の内側について書いた本だ。「歴史家」と「歴史学者」を比べると、歴史家の方が重々しいようだ。

【書評】『日韓同時核武装の衝撃』鄭成長著 核使用できない状況を作る

韓国では独自の国防策として、核武装に賛成する世論が急増しているという。

【書評】『過去と思索(3)』 ゲルツェン著 西欧派とロシア派の対立語る

自伝文学の大傑作。この分冊では1840年5月、内務省に勤務すべくペテルブルクに赴いた時から、47年1月国外に旅立つ時までの7年間がつづられている。その間、父親が亡くなり、親族間の出来事を語り、外国への旅立ちを準備する。著者、28歳から35歳までの時期だ。

【書評】『希望ある日本の再生』 小名木善行著 国家立て直しは建国の精神で

他人の批判ばかりを聞かされても、良い気分にはならないものだ。同じように、何かにつけて相手が悪いと決めつけていても何も改善されることはない。これは政府に対する野党や国民の姿勢についても当てはまる。不平不満がまん延する日本社会への処方箋となるのが本書だ。

【書評】『平安時代の男の日記』倉本一宏著 記録する文化は権力の源泉

NHK大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を務めている著者は、ドラマは恋愛と史実のパートから成り、前者は全くの虚構で、「あんなことはあり得ない」と進言したが、聞いてもらえなかった。後者の、政治や皇位継承はほぼ著者の意見通りで、それは「古記録という貴族の漢文の日記」によったと。

【書評】『西郷従道』小川原 正道著 元勲の実力備えた隆盛の弟

西郷と言えば隆盛が有名だ。西郷従道は隆盛ほど知られていない。16歳年少の弟は、時に地味な役割を引き受けざるを得ない。従道は「つぐみち」と呼ばれるが、本人は「じゅうどう」と名乗った。

【書評】『シベリヤ物語』長谷川四郎著、堀江敏幸編 抑留生活で得た文学の題材

著者は作家、エッセイスト、詩人として知られていたが、その生涯の中で最も大きな体験は、シベリヤに抑留されたことだったようだ。1945年8月、著者は国境地帯の監視哨にいて、ソ連の侵攻によって潰走(かいそう)したが、捕虜となってチチハルの収容所に入れられた。

【書評】『グリーン戦争』上野貴弘著 気候変動をめぐる国際政治

異常気象が原因の線状降水帯による洪水の発生など、気候変動を身近に感じる事態が増えている。深刻なのは、海面上昇で国土が失われつつある島しょ国で、地球規模での温暖化対策が緊急の課題だ。具体的には二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの削減で、国際協定や各国の法整備が進み、国際政治を動かす仕組みになっている。

【書評】『電話恐怖症』大野萌子著 様々な事例と対処法を紹介

本書のタイトルを見て手が伸びたのは、評者自身がこの「電話恐怖症」を長年患っていたからである。患うというと病気みたいだが、実際にこの「電話恐怖症」も深刻なトラウマの一種であることは間違いない。

【書評】『中国の地政学』マテュー・デュシャテル著 中国の視点で捉えた世界情勢

経済大国に成長した中国の影響力はアジアだけでなく、世界全体に広がっている。中国の経済や政治的野心などが世界の国々に影響するようになった現在、中国がどのように世界を捉えているかを理解するのは重要である。

【書評】『京都ものがたりの道 新装版』 彬子女王著 道を辿って歴史をひもとく

平安京の時代から京都の街は「道」でできていて、著者は「京都の道を辿ること、それは歴史をひもとくのに似ている」という。

【書評】『タイガーと呼ばれた男』 江本 精著 空手一筋榎枝慶之輔の評伝

本書のカバー写真は凛々(りり)しい空手着姿であるが、その黒帯の黒がほぼ消えてしまい灰色のボロボロの紐(ひも)状態である。空手道の黒帯は、柔道や合気道の黒帯より、8ミリ位幅広く、また帯の厚みもほぼ倍近く厚い。実に締めづらい帯だ。

【書評】『樹木の教科書』舘野 正樹著 植物の寿命から生き方を知る

樹木の種類は多く、日本だけでも1000種近くある。これらを個別に知るのは難しいが、その生き方を知れば理解を得やすくなる。著者は植物学者で日光植物園の園長でもある。

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