2009年3月23日
ソマリア沖・アデン湾の海賊
海自護衛艦が退治できるの?
海上警備行動で「応急措置」/望まれる早急な法整備
手を振る家族らに見送られ、出港する護衛艦「さざなみ」=14日、広島県呉市の海上自衛隊呉基地
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綾 お父さん、海賊って今もいるの?

父 最近のニュースを見たね。よく映画やアニメに出てくる海賊船のイメージとは違うけど、今でも私有の船を使って、公海上の船舶をハイジャックして乗組員を抑留したり、財産を略奪する人たちがいるのは事実で、毎年、少なからぬ被害を出しているんだ。

綾 どのくらいの被害が出ているの。

父 国際商業会議所(ICC)の下部組織、国際海事局(IMB)の報告書によると、昨年(二〇〇八年)報告された海賊事件は二百九十三件で、〇七年より三十件増えた。〇六年までは、マラッカ・シンガポール海峡をはじめとする東南アジアで海賊事件が一番多かったんだけど、ここ二年間、アフリカ地域が急増して逆転した。特に昨年は前年比58%増の百八十九件で全体の64%を占めるようになり、減少か横ばいの他地域とは対照的だった。中でも、アデン湾・紅海地域が最多の九十二件で、ソマリア東海岸の十九件を含め、ソマリアの海賊が関係した事件は百十一件(38%)にも上ったんだ。

綾 どうして、ソマリアの海賊が活発なの。

父 ソマリアでは一九九一年に中央集権的な政府が崩壊して以来、無政府状態が続いている。スエズ運河を経由してアジアと欧州を行き来する船は、必ずソマリアとイエメンの間にあるアデン湾を通るんだけど、両岸の距離が四百キロ以下と狭い上に一千キロも長さがあるので、海賊がはびこりやすいんだ。

綾 日本の被害はどのくらい。

父 国土交通省海事局のまとめでは、昨年、日本関係船舶、つまり日本籍船と日本の事業者が運航したり日本人が乗船している外国籍船の被害は十二件で、前年の十件から二件増加した。地域別では東南アジア五件、インド周辺二件、アフリカ周辺五件(うちアデン湾三件)だけど、錨泊中や係留中の被害が多く、航行中の被害は四件だけで、そのうち三件がアデン湾で起こっているんだ。

綾 それで自衛隊が、ソマリア沖に海賊退治に出掛けたのね。

父 そう、ソマリア沖・アデン湾を通るタンカーや貨物船は年間約一万八千隻で、そのうち日本が関係した船舶は約二千隻にもなるんだ。それで海上自衛隊(海自)の護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の二隻が十四日午後、広島県の呉基地から出航した。でも、海賊退治じゃなくて、海賊から日本人や日本の貨物を運搬する民間船舶を守るためだよ。

綾 同じことじゃないの。

父 いや、大いに違うんだ。海自の護衛艦はそれぞれ哨戒ヘリ二機を搭載し、訓練を積んだ海自の特殊部隊「特別警備隊」を含む約四百人の隊員と、海賊の逮捕など司法警察業務を行う海上保安官八人が乗り組んでいる。しかし、法律上の制約から海賊船が先に護衛艦や民間船舶を攻撃してこなければ、海賊船の船体に向けて射撃することもできない。とても退治なんてできない。

綾 どうしてそんな制約があるの。

父 今回、護衛艦は、自衛隊法八二条の海上警備行動のため派遣されたんだ。防衛大臣が、海上での治安維持、国民の生命と財産を守るため特別な必要があると判断した場合に、総理大臣の承認を得て自衛隊に命じるのが海上警備行動。もともと、領海内の海上の治安維持は海上保安庁(海保)が担当するが、海保の能力を超える武装した艦船や不審船に対しては、自衛隊が出動するしかない。一九九九年三月の能登半島沖での不審船(北朝鮮工作船)事件で初めて発令され、二〇〇四年十一月の九州南西海域での中国原子力潜水艦による領海侵犯事件に続き、今回が三度目。初めて、日本近海を離れての行動となるが、武器の使用は刑法の正当防衛や緊急避難に相当する状況下に限定されている。

綾 だから相手が攻撃しないと、明らかに海賊船でも攻撃できないのね。

父 その通り。例えば、海賊船が何もせず接近してくる場合はどうするか。海賊たちが船舶によじ登ってくる場合はどうするか。武器使用判断の基準は明確ではない。一瞬の判断の遅れが致命傷になるので、最新の衛星通信設備を積んでいても、いちいち艦隊司令部に尋ねるわけにはいかない。また、日本が関係しない船舶や他国の海軍艦艇が海賊船の襲撃を受けていても、現行法上は武器をもって助けてあげられない。

綾 えーっ、本当。でも、それってひどくない?

父 うん。だから政府は、海上警備行動の発令は「応急の措置」だとして、同じ日に(1)護衛対象をすべての船に拡大(2)海賊船が警告射撃などを無視して民間船舶に接近する場合、船体射撃を認める――などの内容を盛り込んだ海賊対処法(「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法案」)を衆院に提出した。でも、民主党は党内意見すらまとめられず、早期成立の見通しは暗い。対症療法だけでなく、早く憲法にまで遡って自衛隊員が誇りを持って思いっ切り任務を果たせるような法整備をしなければいけないんだが……。
(武田滋樹)
(本紙掲載:3月22日)