2009年3月9日
映画「おくりびと」
アカデミー賞受賞の理由は?
死に対する思いに普遍性/日本文化の型と繊細さで魅せる
2月22日、米アカデミー賞の外国語映画賞を受賞、オスカー像を手にする滝田洋二郎監督=UPI
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綾 アカデミー賞の外国語映画賞に滝田洋二郎監督の「おくりびと」、短篇アニメーション部門に加藤久仁生監督の「つみきのいえ」と、日本映画がダブル受賞だね。これすごいことなんでしょ。

父 そうだね、何といっても米アカデミー賞は、世界最大の映画賞だからね。外国語映画賞は、市川崑監督の「ビルマの竪琴」以来十一作品がノミネートされながら受賞できなかったというんだから、快挙だね。それに短篇アニメーション部門も受賞した。日本映画の底力の現れだと思うね。

綾 「おくりびと」は観たんでしょ。どうだった?

父 うん。面白い映画だし、いい映画だと思ったね。笑わせるところも結構ある。それも下卑たあるいはニヒルな笑いじゃない。陳腐な言い方だけど、感動したよ。

綾 どんなところに感動したの。

父 この映画は、人が亡くなった時、遺体を清めて装束を着せ、化粧をして棺に納める納棺師という仕事に就いた本木雅弘演ずる主人公が、人の死とそれに対する家族の姿に接して、生と死、親子、夫婦など家族の情愛について思いを深め、自分の仕事の意義に目覚めていく姿を描いている。死は、もちろん悲しいことなんだけれども、この映画の根底には、死は終わりじゃなくて、そこを通過して新しい世界へ出て行く門のようなもの、という見方があるんだね。これは、笹野高史が演ずる銭湯の常連客がセリフで語っているんだけど、これが全編のトーンになっている。
納棺師の仕事というのは、その旅立ちをできるだけ美しく荘厳に、いわば演出することと言ってもいい。最初のところで、失業して故郷へ帰ってきた主人公が、「旅のお手伝い」というインチキくさい求人広告に釣られてその会社を訪れるという話が出てきて笑わせるんだけれど、この広告の文句も、それなりの真実を含んでいるんだ。
とにかく、死は悲しいことだけれども、新しい旅立ちであるというのは、仏教、キリスト教、イスラム教など宗教を超えた共通の世界なんだね。そういう普遍性に立脚した点が、この作品が共感を呼んだ理由だと思うね。そして家族たちが、その死者と生前結んだ心の交わりを確かめながら、送り出すという点も同じだよね。
映画「おくりびと」のワンシーン=(C)2008映画「おくりびと」製作委員会
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綾 日本人の繊細な心が評価されたという声もあるよね。

父 何より際立つのは、納棺師の所作の美しさだよね。主演の本木雅弘さんは、納棺師のところで、その所作を熱心に学んだらしいが、それは厳粛でかつ美しい儀式だね。納棺師という職業は比較的新しいものらしいけれど、一つの型を作り上げるというのは実に日本的だね。
それにしても、日本の映画の名作には、小津安二郎の「東京物語」をはじめとしてお葬式を扱ったものが多いと思わないかい。日本アカデミー賞を受賞した伊丹十三監督の作品はそのものズバリ「お葬式」だったね。実は、日本文化の型が一番、はっきりと美しく現れるのが冠婚葬祭、特に結婚式と葬式だというようなことを、世界で最も評価の高い日本の映画監督、小津安二郎が言っている。結婚式や葬式は、家族という問題をクローズアップさせるという意味合いも大きいね。
ただ日本文化の型といっても、それを博物館から持ってきたようなものでは映画にならない。この映画では、日本文化があくまで生活の中に息づき、かつ古いものと新しいものが調和した姿で表現されていたのが良かったと思うね。
いずれにしてもこの映画、いわゆる大作ではないけれど、小津映画をはじめ、日本映画の育ててきた良いものを総動員した作品という感じがするね。描写の繊細さ、小道具の使い方もうまいと思ったね。物を食べる場面、何を食べるかなんかも効いている。干し柿、フライドチキン、ふぐの白子、そして笹野高史が風呂上がりに飲んでいた牛乳とか。

綾 そんなことまでよく覚えてるわね。

父 それだけ、効果的だということだよ。それと、セリフもいいね。どうでもいいようなせりふは一つもなかった。ハリウッド映画風のセリフは、かえって作り物くさく感じることがあるけれど、「おくりびと」では、日本人の実際の感覚から遊離しない程度にユーモアやエスプリが効いていた。ときどき挿入される雪の山や田園風景、雪、桜吹雪など自然景観のカットも効果的だった。いずれにしても、日本映画が長い間かけて蓄積してきたものが総動員されているという感じがしたね。

綾 日本になぜ小津安二郎に続く監督が出ないのかなんて、日ごろ言ってるくせに、えらい褒めようね。

父 いや、日本映画は確実に力を付けてきている。後は「おくりびと」のような普遍性と独自性を持ついいテーマを見つけ、映画化するかどうかだと思うね。
(藤橋 進)
(本紙掲載:3月8日)