露疑惑報告書、自由陣営は選挙介入を防げ


 米司法省は、2016年米大統領選へのロシア介入疑惑に関するモラー特別検察官の報告書を公表した。

 報告書は、トランプ陣営とロシアによる共謀の証拠はないと結論付ける一方、ロシアによる大統領選への介入について克明に記録した。

情報操作とサイバー攻撃

 報告書は、トランプ陣営関係者がロシア政府に近い人物とたびたび接触していたと認定したが、「証拠は刑事訴追の根拠となるのに十分ではない」と指摘。トランプ大統領による司法妨害疑惑については、捜査を担当したコミー連邦捜査局(FBI)長官(当時)の解任やモラー氏の解任要求など10の事例を検証し、犯罪行為がなかったとは断定できないとした。

 報告書によれば、トランプ氏は、モラー氏が特別検察官に任命された際に「これで私は終わりだ」と発言。その後、当時のホワイトハウス法律顧問だったマクガーン氏に電話し、モラー氏の解任を命じたという。だが、報告書は「得られた証拠で起訴判断を行うのは困難」とした。

 トランプ氏は「共謀も司法妨害もなかったことが明らかになった。こんなでっちあげが二度とあってはならない」として、自身の潔白が証明されたと主張した。しかし、野党・民主党は違法行為の疑いが強まったとして追及を続ける構えで、対立は一段と深刻化する見通しだ。

 一方、報告書はロシアによる大統領選への介入についても大きく取り上げている。ロシアはソーシャルメディアを駆使した情報操作とサイバー攻撃を展開していた。

 情報操作では、ロシア企業が米国民を装って何百ものインターネット交流サイト(SNS)のアカウントを作り、トランプ氏の対立候補だった民主党のヒラリー・クリントン元国務長官を中傷する投稿などを大量に発信。サイバー攻撃では、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の専門部隊が、クリントン陣営などのコンピューターに不正侵入して大量の電子メールを入手し、内部告発サイト「ウィキリークス」などを通じて流出させたという。

 クリントン氏は、ウクライナ南部クリミア半島の併合を強く批判するなど、ロシアに厳しい姿勢を示していた。このため、ロシアのプーチン政権はトランプ氏を後押ししてクリントン氏の当選を阻止することを狙ったのだろう。

 米国の国家元首を選ぶ大統領選が他国の介入を受けたとすれば、民主主義が大きな危機を迎えていると言わざるを得ない。米国をはじめとする自由主義陣営は、ロシアなどの選挙介入を防ぐため、連携を強化する必要がある。

大局に立って分断克服を

 この問題をめぐっては、2年近い調査の結果、トランプ氏の立件が見送られたことで一つの区切りが付いたことは確かだ。民主党がトランプ氏への攻勢を強めるのは、来年の大統領選をにらんだものだろうが、米国の政治的分断が深まれば、ロシアや中国などに付け入る隙を与えることになりかねない。米国の政治家は大局に立って分断を克服することが求められる。