米宇宙軍創設、中露に対する優位性確保を


 トランプ米大統領は昨年末、米軍が持つ宇宙分野の全機能を管轄する組織横断的な「宇宙統合軍(スペースコマンド)」を創設する指示書に署名した。

 国防総省内に設けられ、軍による宇宙での活動を統括する。

「強国」建設進める中国

 宇宙軍は、インド太平洋軍や中央軍、特殊作戦軍などに並ぶ11番目の統合軍としての位置付けで、将来は陸海空の各軍や海兵隊、沿岸警備隊に並ぶ6番目の軍として昇格させることを想定している。関連予算は、今年2月に公表予定の2020会計年度(19年10月~20年9月)の予算教書に盛り込まれる。

 宇宙軍創設には、宇宙の軍事利用で台頭著しい中国やロシアに対抗する狙いがある。ロシアは2015年8月に空軍を再編して「航空宇宙軍」を、中国は同年末に人民解放軍にサイバーや衛星防衛担当の戦略支援部隊を新設した。

 ペンス米副大統領はフロリダ州のケネディ宇宙センターで「米国の宇宙安全保障という新しい時代がきょう始まる」と演説。中国が衛星攻撃兵器(ASAT)の実験を行い、ロシアも宇宙空間に兵器を配備しようとしていると強調した。

 中国がASAT開発を推進するのは、米軍が全世界に展開する部隊の指揮管制や敵情偵察、位置情報の把握などを各種衛星に依存している状況について「米軍の最大の弱点」として着目しているためだ。有事の際は、衛星を早期に無力化させて米軍の作戦能力を奪う構想を描いているとも言われている。

 習近平国家主席の号令の下、中国は「宇宙強国」建設に向けて突き進んでいる。今年に入ってからも、世界で初めて月の裏側に無人探査機を着陸させるなど軍民一体で宇宙開発を加速してきた。宇宙空間をめぐる米国と中国の覇権争いが激化することも予想される。

 また、中露は他国の人工衛星を攻撃する「キラー衛星」の研究・開発も進めている。中露による宇宙での軍事開発が進めば、米国やその同盟国にとって大きな脅威となる。米国が宇宙空間で中露に対する優位性を確保する上で、宇宙軍創設は重要な取り組みだ。

 一方、日本政府は今後10年の国防の基本指針となる新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画(中期防)を決定。日本の人工衛星や情報通信システムを脅威から守るため、これまでの陸海空に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域での対処能力の強化を融合させた「多次元統合防衛力」の構築を打ち出した。

 大綱は、新領域での優位性確保が「死活的に重要」と指摘。航空自衛隊に「宇宙領域専門部隊」を新設するほか、「サイバー防衛部隊」を3自衛隊の共同部隊として拡充することを盛り込んだ。宇宙・サイバーでの戦いに積極的に対応する方針を打ち出したことは評価できる。

日米は一層の協力強化を

 日米両政府は首脳会談や外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)などで、宇宙分野での協力推進で一致している。

 今年は一層の協力強化が求められる。