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シリア撤収表明、前政権の失敗繰り返すな


 トランプ米大統領が、シリアからの米軍撤収を表明した。過激派組織「イスラム国」(IS)の殲滅(せんめつ)に成功したというのがその理由だ。ISは広大な支配地を失ったものの、残党は残っている。拙速な対応は、ISの誕生を招いた2011年のイラク撤収という失敗を繰り返すことになる。

マティス長官が辞任へ

 突然の撤収表明は各所に動揺を招いた。マティス国防長官は辞意を表明。トランプ氏への書簡を公表し、意見の対立が原因であることを明らかにした。

 外国駐留軍の縮小、撤収はトランプ氏の公約でもある。昨年1月の大統領就任後も同様の主張を繰り返してきた。米兵らの命を守り、予算を国内に振り向けたい「米国第一主義」の一環であろうが、無計画な撤収は長期的には、米国や同盟国の安全を脅かすことになりかねない。

 トランプ氏は昨年、アフガニスタン駐留米軍の縮小を提案した。しかし、国防総省に反対され、最終的には増派を受け入れた。現在のアフガン駐留軍は1万4000人。一方、政権への取り込みも視野に反政府勢力タリバンと交渉を進めてきた。これは軍事力があってのことだ。

 ところが米メディアは、米政府がアフガン駐留軍の半減を検討していると報じた。すでにアフガンの治安は悪化しており、駐留軍縮小はタリバンを勢いづかせるだけだ。タリバンとの交渉への悪影響も懸念される。

 トランプ氏は、これまでにもシリア駐留軍の撤収を求め、内戦後の復興支援への資金拠出を中止するなどしてきた。米CNNによると、撤収は今月14日のトルコのエルドアン大統領との電話会談中に突然、表明した。

 トルコは、IS掃討作戦で米軍などと協力してきたが、米国の支援を受けてIS掃討を最前線で担ってきたクルド人を敵対視している。米軍撤収で後ろ盾を失うクルド人勢力には動揺が走っており、トルコはシリア内のクルド人封じ込めに動き始めている。これがIS掃討に影響を及ぼす可能性は高い。

 また、シリア内戦に介入してきたロシアやイランにとって米軍撤収は朗報だ。地中海岸に拠点が欲しいロシアには、シリアの存在が重要だ。イランとしても、イラク、シリア、レバノンと続くイスラム教シーア派の影響圏構築は、中東での影響力拡大のために欠かせない。

 隣国イスラエルも、米軍撤収の悪影響を受け、対応を迫られることになろう。敵対するイランや、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラが勢力を増す可能性が高まるからだ。

 トランプ氏は23日、エルドアン氏との電話会談で、撤収を急がないことを明らかにした。突然の表明に懸念の声が相次いだためとみられる。

慎重な対応が必要だ

 IS掃討戦で有志連合の調整を担ってきたマクガーク米大統領特使も、シリア撤収に抗議の辞任を表明した。米議会、与党共和党内からも批判の声が上がっている。トランプ氏は、オバマ前政権のイラク撤収がISの誕生を招いたと非難してきた。拙速な対応が事態を悪化させることを既に経験している。慎重な対応が必要だ。