“外交成果”が最優先事項に 渡部恒雄


笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄

 トランプ大統領は、制裁対象人物の北朝鮮の金英哲労働党副委員長をホワイトハウスの執務室に迎えて90分以上も会談し、最強硬派のボルトン国家安全保障担当補佐官を同席させなかった。ラングーン爆破テロ、日本人拉致、延坪島砲撃などの過去の行状と、北朝鮮の非核化への合意が得られていない状況を考えると、異常な行為だ。

渡部恒雄

 これは、トランプ大統領の自らの生き残りへの執着と特異な同盟観からきている。大統領の最優先事項は、北朝鮮との首脳会談で何かしらの前向きな成果を挙げることにある。理想的には、北朝鮮の核放棄に道筋をつけることだが、おそらく緩い合意でも、外交成果として発表できればいいと考えている節がある。彼にとっては、目まぐるしく米国民の目先を変え、一定のコアな支持を確保しておけば、11月の中間選挙で勝利して自身の弾劾裁判を回避できる。

 安易な交渉結果は、同盟国からの信頼や世界の核不拡散体制を損なう大きなリスクとなるはずだが、トランプ大統領は、そのようなものに価値を見いだしてはいない。例えば、中国への追加関税を保留しておきながら、欧州連合、カナダ、メキシコに鉄鋼とアルミに追加関税を課すという行為を見れば、トランプ大統領の「アメリカファースト」(同盟国よりも国内の支持者優先)が分かる。そして、政権内の専門家は、北朝鮮が米国本土に届く核能力を持ちつつある現在、失うものは多くないため、大統領の気まぐれに賭けてみようと考えているかもしれない。