米核戦略見直し、優位性確保で抑止力強化を


 トランプ米政権は今後5~10年間の核政策の指針となる「核態勢の見直し」(NPR)を公表し、今日のさまざまな脅威に対応するには「核オプションの柔軟性と多様性の強化」が必要だと訴えた。

 安保環境の大きな変貌

 トランプ大統領は昨年1月の就任直後、核兵器の近代化などを盛り込んだ新NPRの策定をマティス国防長官に指示していた。中国やロシアによる急激な核戦力増強や北朝鮮による核開発など、安全保障をめぐる環境の大きな変貌が背景にある。

 こうした認識の下、今回のNPRは核戦力の優位性を回復する狙いがある。とりわけ核兵器の使用については「米国と同盟国の死活的国益を守る極限状況でのみ検討する」としたオバマ前政権の方針を継続する一方、「極限状況」の解釈を大幅に拡大して「米国や同盟国の民間人やインフラ、核施設、指揮管制システムなどに対する重大な戦略的非核攻撃も含む」とし、核の先制不使用を否定した。

 米国による抑止力の実効性の確保と日本を含む同盟国に対する拡大抑止への関与を明確にしたものだ。北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威に直面する日本にとっても極めて重要なことであり、河野太郎外相が高く評価したのは当然だと言える。

 NPRは、爆発力の小さい低出力核弾頭(小型核)や核巡航ミサイルの新規開発を表明。短期的には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の弾頭の一部を小型核に改良し、長期的には核弾頭を搭載した海上発射巡航ミサイル(SLCM)を開発する方針を示した。

 小型核の開発計画は、限定的な核兵器の使用も辞さない姿勢を見せるロシアを意識したものだ。ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した際、核戦力を使用できる臨戦態勢に入る用意もあったと後にプーチン大統領が証言している。ショイグ国防相は2021年までに核戦力の近代化率を90%まで引き上げると表明した。小型核を保有するロシアを抑止するには、同等の対抗手段を持つことが欠かせない。

 オバマ前政権が核軍縮と国防予算縮小を掲げた結果、米国はロシアの核開発に後れを取った。NPRは、ノーベル平和賞まで受賞したオバマ氏の「核なき世界」という理想を目指して核兵器の役割を減らそうとした方針を転換するものだ。

 NPRは、ロシアと中国が自由で開かれた国際秩序の現状変更を目指していると批判し、冷戦時代のような「大国間競争」が再び幕を開けたとの認識を明確に示した。トランプ氏は一般教書演説で「比類なき力こそが確実な防衛手段になる」と述べている。強大な軍事力に基づく「力による平和」を推進しなければならない。

 存在前提に政策立案を

 日本では、一部メディアがNPRに対して「歴史に逆行する愚行」などと非難している。

 しかし、平和利用も含めて原子力をなくすことはもはやできない。政府は「核廃絶」よりも「核兵器の存在」を前提に政策を立案することが肝要だ。“核の傘”を含め、日米同盟の抑止力を強化していく必要がある。