トランプ米政権、対中国政策に変化も


バノン氏辞任、協調重視派の影響力拡大か

 トランプ米大統領の側近だったスティーブ・バノン大統領首席戦略官・上級顧問の辞任は、対外政策にどのような影響を及ぼすのか。「米国第一」政策の主導者が退場したことで、外交・安全保障政策もより現実的な方向に向かうとの見方がある。一方で、トランプ政権屈指の対中強硬派がいなくなり、中国との協調を重視する勢力の影響力が強まることも予想される。(編集委員・早川俊行)

スティーブ・バノン氏

スティーブ・バノン氏(岩城喜之撮影)

 バノン氏が政権を去ったことで、トランプ政権の外交・安保政策は今後、マティス国防長官(元海兵隊大将)、ケリー大統領首席補佐官(同)、マクマスター国家安全保障担当大統領補佐官(陸軍中将)の3軍人に、ティラーソン国務長官を加えた現実主義者の4人が主導権を握るものとみられる。

 バノン氏は米国第一主義と異なる考え方を持つ政権内の勢力を敵視し、中でもマクマスター氏に極めて批判的だったとされる。バノン氏の対決姿勢は政権内で軋轢(あつれき)を生み、混乱の要因になっていたことから、トランプ氏は政権の安定化を優先し、バノン氏を切った形だ。

 バノン氏の辞任でトランプ政権の外交政策がより現実的な路線にシフトすることが期待される一方で、対中政策にも変化が生じる可能性が指摘されている。

 バノン氏は辞任直前に応じたリベラル系メディアとの電話インタビューで、「私にとっては中国との経済戦争が全てだ」と明言。北朝鮮の核・ミサイル危機は「副次的な事柄にすぎない」と断じ、中国との覇権争いに勝つことに「われわれは狂ったように集中しなければならない」と主張していた。

 トランプ政権の発足当初から、バノン氏を筆頭とする対中強硬派と、コーン国家経済会議委員長、大統領の娘婿クシュナー上級顧問ら対中穏健派との路線対立が鮮明になっていた。バノン氏はインタビューでも、戦う相手としてコーン氏を名指しするとともに、「タカ派を(政権に)入れる。スーザン・ソーントン(東アジア・太平洋担当国務次官補代行)は追い出す」と述べていた。

 そんなバノン氏が辞任したことで、対中穏健派の影響力が強まることが予想される。

 ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は、バノン氏の辞任について「米国の対中戦略を劇的に変えようとするバノン氏の取り組みを解除する可能性がある」と指摘。「バノン氏に反対していた政権内の勢力は、米中関係の支配権を取り戻し、バノン氏の主要なイニシアチブを止められる立場にある」と、穏健派が優勢になるとの見通しを示した。

 アジア太平洋の外交・安全保障問題専門のオンライン雑誌「ディプロマット」は、「中国がバノン氏の辞任を心から歓迎していることは間違いない」と強調した。