パリ協定離脱、政府は米の残留働き掛けよ


 トランプ米大統領が、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した。中国に次ぐ世界第2位の温室効果ガス排出国である米国の離脱は、温暖化対策にとって大きな打撃となる。そればかりか、米国の国際的な信頼・指導力の喪失は免れない。トランプ政権と良好な関係にある日本政府は、トランプ氏に離脱再考を強く働き掛けるべきである。

米国の指導力低下を懸念

 トランプ氏は、ホワイトハウスでの演説で、パリ協定を中国やインドなどに比べ米国が順守すべき条件が不利で「極めて不公平」と指摘。米国の雇用や産業に打撃を与えると批判した。

 さらに2025年の温室効果ガス排出量を05年比で最大28%削減するという目標、また途上国の温暖化対策を支援する基金への拠出停止も表明した。

 パリ協定は、米中に加え、途上国も排出削減義務を負う初めての枠組み協定であり、その実効性が期待される。歴史的に温室効果ガスを大量に排出してきた先進国とこれから産業を育成し経済成長を目指す途上国の利害や主張を調整し、米国が中心となってまとめ上げた協定である。それを政権が替わったからといって、一方的に離脱するのは無責任のそしりを免れない。

 パリ協定離脱によって、地球レベルの問題で米国が示してきた指導力が低下することが懸念される。何よりそれを歓迎するのが中国だ。米の離脱宣言を受け、中国は協定の意義を強調し、米国に代わり地球温暖化問題での発言権を増して、「責任ある大国」のイメージをアピールしようとするだろう。また、欧州連合(EU)との接近を深め、世界的な覇権戦略の核となる「一帯一路」構想をさらに進めてゆくことになるだろう。

 トランプ氏としては就任前からの「米国第一」を押し通したということになる。しかしその内向きの決断は、米国内からも批判が出ている。

 協定離脱は国際的な信用と指導力を失うとともに、経済的な見地からも、米国にとって利益になるか疑問である。温暖化対策を基本とした産業の育成が、大きな流れとなっている中、旧来の一部産業界の利益を一時的に潤すだけとの見方が強い。

 米国離脱表明後、山本公一環境相は、「人類の英知に背を向けた」と失望をあらわにした。日本政府は「気候変動問題に対応するために米国と協力してゆく方法を探求する」との声明を発表。今後、米政権に離脱再考を働き掛ける考えだ。

 手続き上、米国の正式離脱は早くても2020年になる。同大統領の求める再交渉は難しそうだが、トランプ氏に再考を促す余地はまだある。同大統領と良好な関係を築いている安倍晋三首相が、地球環境問題での打撃はもちろん、米国や自由陣営の世界戦略の観点からも、米国のパリ協定離脱がいかに大きな損失となるかを縷々(るる)説明し、再考を促すべきである。

安倍首相に説得役を期待

 東洋には、「君子豹変(ひょうへん)す」という言葉がある。誤りに気付いたら躊躇(ちゅうちょ)なく改めるのが真の指導者だ。安倍首相がトランプ大統領の説得役を果たすことを期待したい。