米入国禁止、国内外の懸念払拭に努めよ


 トランプ米大統領が、シリア難民の無期限受け入れ停止や中東・アフリカ諸国の出身者の一時的な入国禁止を柱とする大統領令を出した。

 大統領令の題名は「外国テロリストの入国からの米国の保護」。これら諸国の出身者や難民にはテロリストが交じっている懸念があるので、米国を守るのが狙いだ。

 イスラム圏や難民が対象

 入国禁止の対象となったのは、シリア、イラク、イラン、イエメン、リビア、ソマリア、スーダンの7カ国の出身者。いずれもイスラム教徒が多数派の国だ。ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港をはじめ各空港では、米当局が多数のイラク人を拘束した。

 トランプ氏は大統領選で「イスラム教徒の入国禁止」を掲げていた。大統領令は公約を実行に移したものとみることもできよう。大統領令に署名した際には「新たな入国審査の基準を確立する。同時テロの教訓を忘れない」と述べた。

 ただ米国は「移民の国」であり、さまざまな宗教を受け入れてきた寛容さが繁栄につながった歴史がある。トランプ氏は、テロリストの入国阻止が最優先だとしながらも、「移民の国」の精神を忘れたわけではないと述べている。

 7カ国に関しては「90日たてば全ての国にビザを再び発給する」と約束。一方、「オバマ政権がテロの源と指定した国だ」とも力説した。

 確かに、テロ対策強化は不可欠だ。ロイター通信の世論調査によれば、49%の人が大統領令に賛成し、反対の41%を上回った。

 特に、共和党支持者では賛成が82%に上った。米国民の間でテロへの危機感が高まっていることの表れだろう。

 欧州では、2015年11月のパリ同時テロなどイスラム過激派によるテロが頻発している。過激派組織「イスラム国」(IS)対策に力を入れるトランプ氏が、国民の安全を守るための取り組みを進めること自体は理解できる。

 しかし、大統領令に粗雑で外交的配慮に欠けている面があることは否めない。「信教の自由などを規定した憲法に違反する」との声も上がっている。大統領令に異論を唱え、従わないよう司法省に通知したイエーツ司法長官代行が、解任される事態も生じた。

 米国外でも波紋が広がっている。フランスのエロー外相は訪問先のイランで、大統領令について「差別的であり、反対する」と述べた。英国ではトランプ氏の公式訪問に反対する動きが拡大している。

 大統領令を出す上で、事前の準備や根回しが不足していたことは確かだ。トランプ氏は、米国内外の懸念払拭(ふっしょく)に努める必要がある。

 日米はテロ対策で協力を

 20年東京五輪・パラリンピックを控える日本にとっても、テロ対策は大きな課題だ。

 安倍晋三首相は10日のトランプ氏との首脳会談でテロ対策での協力を確認するとともに、国内では共謀罪を新設する組織犯罪処罰法改正案を今国会でこそ成立させる必要がある。