カストロ氏死去、カリスマ的指導者の功罪


 キューバ革命を率い、同国の精神的支柱だったフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去した。カリスマ的指導者であるカストロ氏の死去は「一つの時代の終わり」と言えよう。

 カトリック教徒へ弾圧も

 だが、現政権に与える影響は限定的とみられる。半世紀近く国を統治したカストロ氏が2008年に議長を退いた後、キューバは弟のラウル・カストロ氏を中心とした穏健な集団指導体制に移行しているからだ。ラウル氏もすでに18年の引退を表明するなど、政権の世代交代が進んでいる。

 冷戦のさなかの1953年7月、カストロ氏は武装闘争を開始し、親米のバティスタ独裁政権を打倒して59年1月に革命政権を樹立した。第三世界や世界の若者たちに大きな影響を与えたキューバ革命である。

 カストロ氏はキューバ共産党による一党独裁体制を敷いた。キューバの教育水準を高め、国民に高度な医療を提供したことは大きな功績だと言える。

 しかし、サトウキビ栽培による砂糖の生産とそのソ連への輸出に依存していた「モノカルチャー経済」だったため、ソ連崩壊で立ち行かなくなり、多くの人々が国外へと亡命した。

 さらに独裁者として政権を批判する反政府活動家らを逮捕、投獄してきた。カトリック教徒への弾圧も行い、バチカンから破門された。

 反米的な姿勢によって米国との関係も悪化させた。62年にはソ連がキューバに核ミサイル基地を建設。これが米ソ関係を極限まで緊張させ、核戦争寸前となった。この「キューバ危機」で、米国との対立は決定的となった。

 一方、ラウル氏は対米関係の改善に乗り出している。米国とキューバは15年7月、半世紀にわたって敵対していた関係に終止符を打ち、国交を回復した。キューバは経済の立て直しに向け、外国企業の誘致などを急いでいる。

 わが国との関係について言えば、カストロ氏は1995年、2003年に日本を訪問している。今年9月には安倍晋三首相が日本の首相として初めてキューバを訪れ、カストロ氏と北朝鮮の核開発問題などに関して意見を交換している。

 カストロ氏の死去で、日本、欧州との関係が影響を受けることはないとみていいだろう。唯一の不安材料は、強硬派として知られるトランプ次期米大統領が、カリスマ的指導者を失ったキューバにどのような政策を打ち出すかが不明であることだ。

 トランプ氏はオバマ米政権がキューバと国交を回復したことを批判してきた。ただ、米国がキューバと断交している間に、中国やロシアが中南米諸国への進出の動きを見せていたことに注意する必要がある。こうした安全保障上の懸念が、オバマ政権がキューバとの関係強化を目指した理由の一つだ。トランプ氏はキューバに人権状況の改善を促しつつ、中南米への影響力強化のために戦略的に関与することが求められる。

 キューバとの関係強化を

 日本はキューバの今後の動向を見ながら関係強化に努めるべきだ。