米の核先制不使用、同盟国の信頼を大きく損なう


 来年1月の任期満了を前に、米国のオバマ大統領がさまざまな核軍縮策を検討している。

 抑止力維持の立場から共和党などが反発するのは必至だが、大統領令などで大胆な核軍縮・不拡散の方針を打ち出すことを模索しているという。核兵器の先制不使用宣言を含む案は、米国内外で議論を呼んでいる。

オバマ政権閣僚も反対

 オバマ大統領は就任直後の2009年4月、「何千発もの核兵器の存在は、冷戦が残した最も危険な遺産」と述べ、いわゆる「核なき世界」の実現を目標に掲げてノーベル平和賞を受賞した。それから7年が過ぎ、核兵器の役割低減を図る政策を進展させ、外交上のレガシー(遺産)に磨きを掛ける狙いがあるとされる。

 オバマ政権が検討している政策には、先制不使用宣言に加え、核実験禁止を確認する国連安全保障理事会の決議採択の模索、21年に期限が切れるロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長、10年間で3500億㌦(約35兆6600億円)を要する核兵器の改修・更新計画の縮小などが含まれている。

 核兵器の先制不使用政策をめぐっては、7月の閣僚会議でケリー国務長官やカーター国防長官、モニズ・エネルギー長官がそろって反対したという。

 ケリー長官は、米国の「核の傘」に依存する同盟国の懸念について説明。カーター長官も、米国の核抑止力に対する同盟国の不安を招きかねないとして反対した。

 米紙ワシントン・ポストの指摘によれば、同盟国の政権からは米国の核の傘の下にいる全ての国々にオバマ大統領の宣言がどう影響しうるかについて「自分たちとの協議が行われなかったことに失望の念」が表明されている。

 東西冷戦の真っただ中、ソ連よりも通常戦力で劣勢だった北大西洋条約機構(NATO)側は、核兵器の先制使用を放棄しなかった。冷戦が終わっても、米国の戦略ドクトリンはヨーロッパと米国防衛の究極的な手段として、核兵器の先制使用はありうるとの考え方を保持している。それはヨーロッパのみならず、米国との同盟国にも適用される。

 今日、大量破壊兵器は核兵器だけを意味しなくなった。米国が核の先制使用の選択肢を保持することは、同盟国に対する核攻撃のみならず、大量破壊兵器である生物・化学兵器や大規模な通常戦力による攻撃も抑止できる。

 核兵器に比べて生物・化学兵器は安く、容易に製造でき、貧者の核兵器と呼ばれている。北朝鮮は化学兵器禁止条約には加盟しておらず、相当規模の化学兵器を開発・保有しているとみられる。

抑止力を低下させるな

 日本政府は、日本の安全保障の根幹は日米安保条約であり、核抑止力を含む核の傘に依存しているとの考えを、米政府に重ねて伝えている。

 先制不使用政策が導入されれば、核の傘にほころびが出る。同盟国が反対するのは当然のことである。オバマ大統領は核抑止力を維持すべきだ。