米大統領選、トランプ氏の排外主義を憂慮


 米大統領選の共和党候補者指名争いで、不動産王ドナルド・トランプ氏が他の候補に大差をつけて先頭を走っており、「トランプ旋風」と呼ばれている。

 我々が不安に思うのは、トランプ氏の主張が偏狭なナショナリズムに基づいていることだ。万一大統領に選出されれば、日米関係だけでなく、世界の平和と安定への不安材料となろう。

日本も批判の矛先に

 米大統領選の序盤戦最大のヤマ場である「スーパーチューズデー」で、トランプ氏は共和党の予備選・党員集会の行われた11州中7州で勝利した。

 トランプ氏は保守派だが、極論を並べて有権者の人気を集めるという、米国に多い典型的なポピュリズム(大衆迎合主義)の扇動政治家だ。例えば、不法移民の強制送還、イスラム教徒の入国禁止に加え、移民の不法入国を阻止するためのメキシコ国境での壁構築など非現実的な人気取りの政策を唱えている。

 日本との関係で気掛かりなのは、日米安保条約は「日本のただ乗り」と主張し、経済面でも円安誘導などと批判していることだ。万一彼が大統領になれば、日米関係はかつてない危機的状況を迎えることになろう。

 「旋風」とまで呼ばれるに至ったトランプ氏の人気の背景にあるのは、米経済の低迷による中間層の閉塞感だ。米国では約3%の高所得者層に富の50%以上が集中する。これは異常だ。

 失業率は半減したが、米国の成人人口のうちフルタイム(週30時間以上)で定収がある人の比率は44・5%にとどまっている。特に不満が強いのは白人の中年層だ。この層の死亡率はアルコールや薬物中毒、自殺などによって増えている。

 彼らの不満は「不法移民」に向けられている。移民排斥を平気で口にするトランプ氏は、自分たちのために「本音を代弁してくれる人」として人気を集めているのだ。

 現在の米国には、冷戦後のような世界唯一の超大国の面影はない。南シナ海では軍事拠点化を進める中国への対応に手こずっている。ロシアが煽(あお)るウクライナ危機や過激派組織「イスラム国」の掃討などにも苦慮している。

 こうした背景もあって、トランプ氏が掲げる「偉大な米国の復活」に大衆の共感と支持が集まった。しかし、彼の唱えるポピュリズム的政策で米国が国内外の困難を乗り切れるとは思えない。

 米国が世界最強の軍事そして経済大国となったのは、各地からの移民で世界の頭脳と活力を吸収してきたからである。米国民の多様性こそ、どの国にもない強みであることを忘れてはなるまい。

自由世界指導国の自覚を

 オバマ大統領をはじめとする既成政治家が国民の不満に十分に対応してこなかったことも、国民の政治不信を強め、「トランプ旋風」につながっている面もあろう。だが、トランプ氏が主張する移民排斥などの排外主義では何も解決しない。各候補者は米国が自由世界の指導国であることを自覚し、次期大統領として、どのように米国と世界を導いていくかを真剣に論じ合ってほしい。