露閣僚失脚、領土問題の原点踏まえ対応を


 12月中旬の山口県での日露首脳会談を控え、ロシアの捜査当局はウリュカエフ前経済発展相を収賄の疑いで刑事訴追した。ウリュカエフ氏に対し、プーチン大統領は「信頼を失った」として経済発展相の職務を解任した。ウリュカエフ氏は、日本側が提案した8項目の経済協力プランの担当閣僚だった。

 収賄の疑いで刑事訴追

 大統領直属機関の連邦捜査委員会の発表によれば、ウリュカエフ氏は政府所有の中堅石油企業バシネフチの民営化をめぐって、同社の50%超の株式取得を狙った国営の石油最大手ロスネフチ幹部に賄賂を要求。払わなければ同社の活動を妨害すると脅迫した疑いが持たれている。

 捜査当局は、ウリュカエフ氏がロスネフチ幹部を脅す通話を傍受したとされている。同氏は株式取得を容認した見返りとして200万㌦(約2億1600万円)を受け取った現場で拘束されたという。

 ウリュカエフ氏は裁判所から来年1月15日までの自宅軟禁の処分を受けたが、本人は無罪を主張。弁護人は「挑発の犠牲」になったと訴えた。捜査当局は犯罪を裏付ける十分な証拠があると反論している。有罪となれば、同氏には最高禁固15年の刑が下される可能性がある。

 ロシアとの経済協力強化を北方領土交渉打開の突破口としたい日本側では、戸惑いが広がっている。今月訪露してウリュカエフ氏と会談した世耕弘成経済産業相は「大変驚いている」と述べた上で、経済協力の作業計画策定は「着実に淡々と進めていきたい」と強調した。同氏失脚の影響を最小限にとどめたい考えだ。

 ただ経済協力に関しては、領土問題が置き去りにされるのではないかという懸念もある。ロシア側には「領土と経済とは別」との認識が根強く、経済協力のカードが功を奏するかどうかは未知数だ。

 プーチン大統領は1956年の日ソ共同宣言に明記された「2島引き渡し」以上の譲歩には応じない姿勢で一貫している。先月末に来日したマトビエンコ上院議長は「2島や全島を引き渡すための交渉は行われていない」と「0島返還」の可能性を示唆した。

 日本でも「2島返還」論を主張する向きがある。だが、北方四島は日本固有の領土であり、ロシアが不法占拠を続けていることを忘れてはならない。ウリュカエフ氏失脚後の交渉においても、こうした領土問題の原点を踏まえて対応すべきだ。

 ロシアは主要輸出品である原油の価格低迷により景気が大幅に悪化し、これにウクライナ問題を受けた欧米の経済制裁が追い打ちをかけている。

 日本からの経済協力は極めて魅力的だ。しかし経済的恩恵を得ようとする一方、北方領土問題は最大でも「2島返還」で済まそうとするのであれば虫がよすぎる。

 首相は4島返還求めよ

 安倍晋三首相はプーチン大統領との会談で、4島一括返還を強く求めるべきだ。北方領土と同じように、ロシアの「力による現状変更」であるウクライナ問題に関しても解決を迫る必要がある。