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野党指導者暗殺、露民主主義に深刻な懸念


 ロシアのプーチン政権を批判してきた野党指導者ボリス・ネムツォフ元第1副首相が、モスクワ中心街で射殺された。国家統制色が強まるロシアで、野党指導者、反政権ジャーナリスト、人権活動家らの暗殺が相次いでいる。ロシアの民主主義の実態に、深刻な懸念を抱かざるを得ない。

 「反戦デモ」の直前に

 ネムツォフ氏は反プーチンデモを主導するなど、反政権派の中心的人物の一人だった。プーチン政権のウクライナ軍事介入に抗議する「反戦デモ」を1日に実行する予定で、その直前に殺害された形だ。

 ネムツォフ氏と交流があったウクライナのポロシェンコ大統領は「暗殺されたのは、ロシアが軍事介入している証拠を暴露しようとしたため」と地元テレビに語った。本人から数週間前、この証拠の存在を伝えられたという。内容は不明だが、反戦デモで公表するつもりだった可能性もある。

 一方、ロシアの野党勢力は、政権と対立する有力者を抹殺した「政治的な殺人」との見方を示した。ペスコフ大統領報道官は「ネムツォフ氏は政権の脅威でない」と述べ、政権関与説を一蹴。プーチン大統領は「おぞましい殺人で、何者かが指示した謀略だ」と語り、暗殺事件捜査を陣頭指揮することを明らかにした。

 ロシアの治安当局は、事件を徹底的に捜査し、真相究明に全力を挙げるべきだ。

 もっとも、プーチン政権・メドベージェフ前政権下では、政権の腐敗などを厳しく批判してきた女性記者アンナ・ポリトコフスカヤさんや、チェチェン戦争の際の地元住民に対する誘拐や拷問、殺人などを告発してきた人権活動家ナタリア・エステミロワさんら、数々の野党指導者や反政権ジャーナリスト、人権活動家が殺害され、その多くの事件が迷宮入りしている。

 プーチン政権は、急速に国家統制色を強めている。与党に極めて有利な選挙法改正を実施し、民主改革派を中心とする野党系小政党を議会から排除した。大統領の「政敵」である元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏や反政権ブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏は、横領などの罪で有罪判決を受けた。

 政府によるマスコミ統制は強化され続け、全国ネットテレビ局や多くの有力紙が国営、もしくは買収により政府系企業や親政権財閥の傘下に置かれた。わずかに残った独立系記者はさまざまな圧力にさらされている。

 プーチン大統領は欧米から「民主化後退」と批判されるたびに「ロシアにはこれまで民主主義は存在せず、現在、民主主義発展の途上にある」とかわしてきた。しかし、勇気を持って政権を批判する野党指導者、記者、人権活動家らが残忍に暗殺され続けている状況下で、まともな民主主義が生まれるのか。

 人権侵害解決に全力を

 プーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア独立派を支援する理由として「ウクライナ政府による南・東部住民に対する人権侵害」を主張している。その真偽はともかく、ロシア国内の人権侵害問題の解決にこそ全力を尽くすべきだ。

(3月4日付社説)