米大使館移転、和平に向けた道筋を示せ


 米国は在イスラエル大使館を商都テルアビブからエルサレムに移転させた。パレスチナ人による抗議で多数の死傷者が出ており、トランプ米大統領は和平の推進で国際社会が納得できる道筋を示すべきだ。

抗議デモで死傷者多数

 イスラエルのネタニヤフ首相は大使館移転を「歴史的」と歓迎し、グアテマラ、パラグアイなど一部中南米諸国も追随の見通しだ。しかし、移転前夜に行われた歓迎式典への参加を見送る国が続出するなど国際社会からの反発は根強い。

 トランプ氏は大統領選中から中東和平を「究極の取引(ディール)」と呼び、意欲を示してきた。ユダヤ教徒で娘婿のクシュナー大統領上級顧問に中東和平を担当させていることもその表れだろう。しかし、イスラエルによるヨルダン川西岸での入植活動にはほとんど言及しないなど、イスラエル寄りの姿勢が目立つ。昨年12月のエルサレム首都承認、大使館移転の表明などでその姿勢は決定的となった。イラン核合意からの離脱表明もイスラエルを喜ばせた。

 パレスチナ自治政府は強く反発し、アッバス議長は「米国は和平交渉のパートナーではない」と米国が関与する交渉を拒否する意向を明確にしている。

 和平交渉は2014年に停止したまま、再開のめどすら立っていない。1993年のオスロ合意(パレスチナ暫定自治宣言)に基づく和平プロセスはすでに死んだという主張も聞かれる。

 トランプ氏のイスラエルへのこだわりは、11月の中間選挙への実績づくりが理由の一つだ。トランプ氏の支持者にはイスラエル寄りの人々が多い。とりわけ熱烈なイスラエル支持のキリスト教福音派は重要な票田であり、苦戦との予測もある半年後の中間選挙をにらみ、イスラエル政策は重要性を増している。

 米議会は1995年にエルサレムを首都に認定し、大使館を移転させることを承認していた。だがクリントン氏以降、歴代の米大統領は中東和平への悪影響や国際社会からの反発を恐れ、移転を見送ってきた。

 ロシアも昨年春にエルサレムを首都と認定した。しかし「西エルサレム」に限定するなど、イスラエル、パレスチナ双方に配慮している。

 欧州のほとんどの国は大使館移転には否定的だ。日本政府も移転しないと表明している。パレスチナでは大規模な抗議デモが発生し、イスラエル軍との衝突で多数の死傷者が出ている。欧州、中東各国からも「虐殺」と強い非難の声が上がった。

 今月に入りイスラエル紙エルサレム・ポストは、大使館移転後、米政府は和平案を提示すると報じた。リークされた和平案によると、東エルサレムのパレスチナ人居住地域のうち4地域からのイスラエルの撤収を求めている。イスラエルに譲歩を迫る意思があるということか。

無謀なイスラエル政策

 イスラエル一辺倒の政策では、和平の推進どころか、交渉の開始すら難しい。

 米政府の従来の政策からの大転換で「英断」との評価もあるが、和平達成への道筋がないままの大使館移転は、無謀でしかない。