トルコでクーデター未遂、強権支配は混乱を増すだけだ


 トルコで軍の一部によるクーデター未遂が起き、エルドアン大統領は徹底した取り締まりを表明した。

 だが、大統領はこれまでも強権支配との批判を受けている。力ずくで抑え込むだけでは国内の亀裂は深まるばかりだ。

イスラム化進むトルコ

 エルドアン大統領をめぐっては、2003年の首相就任後から、強権的政治手法、イスラム化の推進、近親者の登用などが指摘されてきた。その一方で、好調な経済を背景に強い支持を得てきた。社会のイスラム化に関しては、国民の99%がイスラム教徒のトルコでは、受け入れられる素地があるのは確かだ。イスラム系与党・公正発展党(AKP)は世論の後押しを受けて、すでに14年にわたって与党の地位にある。

 エルドアン氏は自身の権限強化にも熱心だ。トルコの大統領職は本来、儀礼的なもの。しかし、エルドアン氏は一昨年の大統領就任後、議院内閣制を廃し、大統領権限を強化した大統領制に移行する憲法改正を目指している。

 トルコは1923年の建国以来、政教分離を国是とし、軍が世俗主義の「守護者」の役割を果たしてきた。AKPの政権奪取以前は、イスラム政党そのものが禁止され、宗教の政治への影響力には一定の歯止めが掛かってきた。ところが、エルドアン氏は、政権に反対する軍幹部を解任するなど、軍への影響力を強化してきた。

 エルドアン氏は、イスラム教穏健派の「ギュレン運動」がクーデターの黒幕と主張し、米国亡命中の指導者ギュレン師の引き渡しを要求。国内では運動支持者らの拘束を進めている。だが、ギュレン運動のクーデター関与の証拠は示されていない。

 かつて協力関係にあったギュレン運動とは、13年の政権をめぐる大規模汚職疑惑をきっかけに対立、敵対関係が続いている。ケリー米国務長官はトルコ政府からの引き渡し要求に対し、クーデター関与の「確かな証拠」が必要と静観の構えだ。

 トルコは1960年から80年の間に3度のクーデターを経験してきた。いずれも政教分離の危機、政治的混乱が原因で、今回のクーデターも、エルドアン政権による民主主義の形骸化、イスラム化推進に軍の一部が危機感を抱いたことが原因ではないかとみられている。

 トルコ内務省は8000人以上の公務員を解任、軍人・司法関係者7000人以上を拘束したと発表した。エルドアン氏はこれまでも自身に敵対的な軍人、司法関係者らを解任しており、今回も「混乱に便乗した基盤強化」との批判が出ている。

 クーデター未遂を受けて米国、欧州連合(EU)はエルドアン政権への支持を表明。日本政府も「民主的体制は尊重されるべきだ」(安倍晋三首相)と現政権への支持を明らかにした。

情勢不安定化は不可避

 トルコは、難民問題、シリア内戦、過激派組織「イスラム国」(IS)対策で大きな役割を担っている。エルドアン氏は過半数の国民からの支持を盾に強権支配を正当化するが、このままでは情勢の不安定化は止められない。