イランに核開発放棄を要求し続けよ


 イランの核開発をめぐり欧米など6カ国との間で暫定合意が交わされた。ウラン濃縮活動の縮小などをうたっているものの、イランの核開発を温存させるものでしかない。

 オバマ政権の強い意向か

 イランの核開発疑惑は2002年に反政府組織が暴露したことで表面化した。国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国との間で断続的に交渉が行われてきたが、対米強硬派のアハマディネジャド政権下でウラン濃縮活動が強化されたため、欧米諸国との関係が悪化し、交渉も難航していた。

 大きな転機は、イラン大統領に保守穏健派のロウハニ師が就任したことだ。ロウハニ大統領は就任直後の今年9月、国連総会出席のため訪れた米国でオバマ大統領と電話で会談し、対米接近の意思を示した。だが、ロウハニ大統領は核開発の「権利」を放棄しないことを明確にしている。今回の協議でも、イランはこの権利を明記することを求めたが、見送られた。

 協議は途中から閣僚級に格上げされ、ケリー米国務長官が乗り込むなど、米国は合意締結へ並々ならぬ意欲を見せた。背景には、目玉政策の医療保険改革が当初からつまずき、オバマ大統領の支持率が低迷していることがある。

 「アラブの春」でチュニジア、エジプト、リビア、イエメンの長期独裁政権が打倒されたが、政権交代後も各国で混乱が続いていることは米国の中東への影響力低下をうかがわせる。リビアの米領事館が襲撃され、外交官ら米国人4人が死亡したこともオバマ政権の中東政策のまずさを物語っている。

 オバマ大統領にとって、イラン核合意は医療保険改革での不手際から国民の目をそらすための格好の手段だ。さらに外交で成果が少ないため、その意味でもまたとないチャンスだった。

 イランは今後6カ月間、核開発を縮小し、査察を受け入れ、欧米は経済制裁の一部を緩和する。イランが核交渉で最も望んでいたものは制裁の緩和だ。長引く制裁で通貨は暴落、インフレが進み、国内経済は疲弊している。核開発を放棄せずに、小規模とはいえ制裁の緩和で合意できたことは大きな成果だ。

 対米関係の改善は、地域の大国としてのイランの影響力の強化にもつながる。それを警戒しているのは、ペルシャ湾岸のアラブ諸国とイスラエルだ。

 イスラエルはイランとの核交渉に警戒感を表明、ネタニヤフ首相は合意を「歴史的過ち」と強く非難した。サウジアラビアなどペルシャ湾岸のアラブ諸国もイランの対米接近には否定的だ。これらの親米国の反対を押し切ってあえて合意に踏み切ったのは、オバマ政権の意向が強く働いたとみるべきだろう。

 国際社会は、これまで通りイランに核開発の放棄を要求し続けるべきだ。核開発を温存させれば、同国が核武装を目指すのは間違いない。

 中東情勢への影響考慮を

 ホルムズ海峡は世界の原油の4割、日本の輸入原油の9割が通過する、いわば経済の大動脈だ。核合意がイランをめぐる中東情勢にどのような影響を及ぼすかを注視する必要がある。

(11月30日付社説)