イラン制裁解除、核問題の合意順守へ警戒を怠るな


 核開発疑惑を受けてイランに科されていた経済制裁が解除された。核開発は当面は制限され、イランは国際的な孤立から解放される。だが、イランは核武装の野望を放棄してはいない。
 保守派は依然として反発

 イランは昨年7月、欧米など6カ国と核問題をめぐって合意した。核開発を縮小する一方、欧米などがイランへの制裁を解除するものだ。

 昨年10月の核合意発効後、イランはウランのロシアへの搬出、ウラン濃縮用の遠心分離機の破棄などを着実に実施してきた。穏健派のロウハニ大統領は制裁解除を受けて「イランと世界の関係との新たな時代が始まった」と歓迎を表明した。

 これでイランは凍結されていた巨額の資金を手に入れ、欧米などの企業との取引も解禁される。日本政府も早ければ、22日に制裁解除を決める見通しだ。イラン政府は早速、日量50万バレルの原油増産を命じた。外国企業の期待も大きく、制裁解除をにらみ、50カ国から150社以上がイランを訪れたという。

 しかし、この動きがいつまで続くかは不透明だ。反米・反イスラエルを掲げるイラン国内の保守派は依然、核合意に反対している。2月に実施される国会議員選挙、高位イスラム法学者で構成される専門家会議選挙の結果によっては、保守派が巻き返す可能もある。専門家会議は最高指導者を選出し、イラン政治の動向を左右する。

 イランの最終判断は最高指導者ハメネイ師の手に委ねられている。核合意、制裁解除は前向きに評価しているが、対米関係改善を支持したことはない。今後、ロウハニ大統領の動向によっては、保守派の反発が強まり、核合意の実施、対欧米接近に歯止めがかかる可能性もある。

 また、対露接近も気になる。イランはロシアの支援を受けてブシェール原発を稼働させた。最近では、シリアのアサド政権支持でロシアと軌を一にし、ロシアの防空ミサイルS300を導入しようとしている。

 イランは各地のイスラム教シーア派勢力を支援するなど、中東での覇権拡大を進めてきた。クリミア半島を併合し、ウクライナ東部に軍事介入したロシアへの接近は警戒すべきだ。

 また、中国の習近平国家主席はイラン、サウジ、エジプトなどを訪問する。イランは中国のシルクロード経済圏(一帯一路)構想で重要な位置を占める。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーでもあり、対中急接近が進みそうだ。

 イランが核武装の野望を放棄したという兆候は見られない。核合意後、国際社会は示し合わせたようにこの点には言及しなくなった。

 警戒を訴えているのは直接脅威にさらされるサウジとイスラエルくらいだろう。サウジのジュベイル外相は、イランが合意に反して核兵器を手に入れた場合、サウジも核武装する可能性を示唆している。

 慎重な見極めが必要

 核合意が有効なのは10年から15年にすぎない。制裁解除による経済的な恩恵は確かに大きいが、世界の平和と安定に長期的に貢献するかどうか慎重な見極めが必要だ。

(1月21日付社説)