イスラム国、国際的脅威に連携してに対応を


 オバマ米大統領がイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」を打倒するため、イラクで実施している空爆作戦をシリアに拡大する方針を示したことを受け、ヘーゲル米国防長官はシリアでの空爆計画を承認した。

 残虐行為で勢力拡大

 イスラム国はイラクとシリアを股に掛けて猛威を振るうテロ集団で、住民を虐殺し外国人を拘束し、国際社会への脅威となっている。まずイラクで自爆テロなどを繰り返して勢力を拡大し、さらに隣のシリアが内戦で混乱しているのに目を付け同国での支配エリアを広げた。

 その特色は比類のない残虐さで、人々の恐怖心を利用して勢力を拡大してきた。例えば、彼らの「首都」とされているのはシリアの主要都市ラッカだが、市内の目立った場所にシリア兵数十人の遺体をさらし、住民を従わせてきた。イラクの主要都市モスルやティクリートが容易に彼らの手に落ちたのも、警察幹部を惨殺する映像をインターネットで流し、イラク軍幹部らが逃げ出したためだという。

 イスラム国の指導者、バグダディ容疑者は「カリフ制国家」を宣言した。カリフとはイスラム世界全体の最高指導者を指し、バグダディ容疑者は全てのイスラム教徒に忠誠を誓うよう求めてきた。問題は、過激なイスラム思想に傾きがちな中東の若者だけでなく、世界の現状に不満を抱く欧米諸国の若者も続々とイスラム国に参加していることだ。彼らが母国でテロ活動を行うことが懸念される。

 2011年にイラクから米軍を完全撤退させたオバマ大統領は「イラクへの回帰」を嫌い、軍事介入を控えめにしてきた。このような政策を転換させたのは、イスラム国による米国人殺害の映像が流されたからだ。これで米国の世論はイスラム国壊滅へと変わった。

 これまでのような限定的な軍事介入では十分な効果はない。「世界の警察官」としての役割を放棄してきたオバマ政権が、空爆拡大決定で脅威への積極的対応を進める意義は大きい。

 イスラム国打倒に当たって、まず必要なのは国際連携だ。北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、イスラム国が国際的脅威であることを確認した。「有志連合」の構築を考えるべきだ。イスラム国が2万~3万人の戦闘員を抱え活動を活発化させているのは、石油密輸などで得られた豊富な資金があるためだ。国際社会はサウジアラビアなど中東諸国と協力して資金の流れを遮断する必要がある。

 われわれが考えなければならないのは、イスラム国を含め過激派が中東で拡大する背景だ。中東の民主化運動「アラブの春」から3年以上が過ぎたが、貧困・格差拡大といった現状は改善されていない。そこに過激派拡大の温床がある。

 宗派対立を克服せよ

 イスラム国は、シーア派が実権を握っていたイラクのマリキ前政権に攻撃を仕掛け、スンニ派住民地域に支配を広げた。シーア派大国のイランを脅威と見なす湾岸諸国はこれを静観していたため、イスラム国の勢力拡大を招いた。イラクのアバディ新首相には宗派対立の克服に向けた政権運営が求められる。

(9月18日付社説)