金正恩氏訪中、また非核化ショー始める気か


 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が訪中し、習近平国家主席と会談した。金氏は昨年、南北首脳会談や史上初の米朝首脳会談を前後し3回訪中した。今回も近く開催が予想される2回目の米朝首脳会談に向けた事前協議の性格が強い。

 だが、非核化交渉を前にした中朝首脳の話し合いには疑念がつきまとう。北朝鮮が完全非核化に応じないシナリオを描き、中国がそれを容認する可能性があるからだ。

 米朝再会談に向け結束

 会談後の発表によれば、金氏は「非核化を堅持」し、開催が予想される2回目の米朝首脳会談で「成果を得られるよう努力する」と強調した。習氏もこれらを全面的に支持したという。

 だが、これを額面通りに受け止める向きは少なかろう。双方とも狙いは別のところにある。北朝鮮は米国との再会談を前に中国という後ろ盾がいることを改めて見せつけられる。一方の中国は貿易摩擦で対立する米国との関係改善に向けて北朝鮮非核化に一役買っているとアピールできる。

 昨年、北朝鮮非核化は失敗に終わった。北朝鮮は完全非核化を拒否しながら、さらなる核・ミサイル開発に邁進(まいしん)する時間を稼いだ。南北・米朝の会談はあたかも北朝鮮が非核化に応じたかのような錯覚を世界に広めたが、実際にはその逆だった。そこに至るプロセスには中朝首脳による3回の会談があったことを忘れてはならない。

 金氏が何度も中国に足を運ぶのはなぜか。中国の後ろ盾がなくなった場合、国の存亡に関わる事態になると判断しているためだ。

 独裁維持には完全非核化に応じられない事情を理解してもらい、経済破綻を回避するため国際社会の対北制裁を緩和させるよう協力を得たいのだろう。本気で完全非核化するつもりであれば訪中を重ねることにさほど意味はない。

 米国と本格的な覇権争いを始めた中国にとっても金氏訪中のメリットは少なくない。朝鮮半島で自らの代わりに米国を牽制(けんせい)してくれる北朝鮮の地政学的な存在価値は大きい。国内経済に決定的な悪影響が出ない限り、今後も北朝鮮の核開発を黙認し続けるだろう。

 金氏は米朝再会談が実現した場合、「関係各国が北朝鮮の合理的な懸念を重視し、積極的に対応してほしい」と求めたという。これについても習氏は支持したようだ。これは制裁解除や朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を指したものとみられている。中朝が結束して米国に圧力を掛けているも同然だ。

 トランプ米大統領はこうした「中朝の一枚岩」に対抗しなければならない。日本は米国が言葉だけの非核化でお茶を濁されないよう厳しい姿勢で臨むことを促すべきだ。

 懸念される韓国の融和

 中朝の動きとともに懸念されるのが、南北・米朝・中朝の対話を無条件に歓迎する韓国・文在寅政権の融和一辺倒の姿勢だ。

 米朝の仲介役を買って出ても最終的に中朝にいいように利用されたまま非核化が失敗に終わった昨年の二の舞いとなってはならない。