北非核化交渉、このままでは失望が広がる


 米朝首脳会談で合意された北朝鮮の「完全な非核化」をめぐり、会談後間もなく開かれるとみられていた双方の高位級による交渉が遅れている。ポンペオ米国務長官は交渉に期限を設ける考えはないと述べるなど北朝鮮に非核化を厳しく迫ろうとしているとは到底思えない態度を示した。このままでは北非核化に失望感が広がるほかない。

 米高官「期限設けず」

 ポンペオ氏は米メディアとのインタビューで、期限を設けないと明らかにするとともに非核化に向かわせる詳細な行程表を北朝鮮に要求するのは時期尚早とも語った。発言の背景には交渉が遅れていることがあるようだが、これでは北朝鮮に逃げ口実を与えるようなものだ。

 米朝会談では共同声明やトランプ米大統領の記者会見などを通じ、北非核化への懐疑的な見方が強まった。「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」は声明に盛り込まれず、トランプ氏もその点に関する納得いく説明をしなかったからだ。

 ポンペオ氏は米上院歳出委員会の小委員会で「完全な非核化」について「米朝会談では全く誤解の余地がなかった」と述べ、米朝間に認識のズレはないと強調した。だが、そうであれば期限を設けず、行程表を要求しない理由もあるまい。実際は米朝間で非核化に対する考えが大きく隔たっているのではないか、と疑わざるを得ない。

 米国の北分析サイト「38ノース」が米朝会談後に撮影した衛星写真で北朝鮮の寧辺核施設でインフラ整備が速いペースで進んでいることが確認された。非核化に逆行する動きと言える。

 軍部隊や工場などで思想教育する内容にも非核化に舵(かじ)を切ったことをうかがわせるものはまだ確認されていないとも言われる。核武装こそ米国と対等の立場に立つ道で、その後に核軍縮交渉に臨むというのが一貫した北朝鮮の方針であり、それが変わっていないだけなのだろう。

 米朝会談とその後の米高官の発言は北非核化に期待を抱かせる言葉だけが躍ったとの印象を拭えない。思わせぶりや曖昧さを残すのは混乱を招くだけだ。

 交渉が始まっても、北朝鮮が本気で非核化に向かう決断を下したのかは徹底した査察で初めて分かることだ。だが、それには北朝鮮の協力が不可欠だ。残念ながら体制上、北朝鮮が査察団の自由往来を認めるとは考えにくく、このまま査察団を現地に派遣しても核を全廃したのか確認できない恐れが大きい。

 とはいえ、北非核化を放棄するわけにはいかない。米政府・与党内には対北強硬派がおり、軍事オプションを残したまま厳しい態度で迫るべきだという声がある。北朝鮮はジュネーブでの軍縮会議で非核化交渉と関連し日本に「邪魔をするな」と牽制(けんせい)したが、日本には一貫した圧力重視の姿勢で北朝鮮を非核化に向かわせる責任があろう。

 北に裏切られた過去

 一部では米朝会談を北非核化への意義ある第一歩だと評価する向きもあり、韓国では金正恩朝鮮労働党委員長が「開発独裁」に向け歩みだしたと持ち上げる風潮もあるようだ。楽観視し過ぎて北朝鮮に裏切られた過去の失敗を忘れてはならない時だ。