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北「拉致は解決」、圧力回避を狙った日本牽制か


 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は北朝鮮による日本人拉致問題について「すでに解決した拉致問題を持ち出して朝鮮半島の平和の流れを阻もうとしている」などとする論評を伝えた。来月12日にシンガポールで開催されることになった米朝首脳会談を前にし、北朝鮮が完全かつ検証可能で不可逆的な非核化に向け具体的行動を示すまでは国際社会の圧力を緩めるべきではないと主張し続ける日本を牽制(けんせい)したものとみられる。

日中韓首脳宣言に反発

 北朝鮮はこれまで拉致は解決済みとする立場を繰り返し主張してきた。今回、米朝首脳会談を前に改めて強調したのは、先の日中韓首脳会談で中韓両首脳が拉致問題に関し、対話を通じた早期解決を希望することを確認し、これが初めて共同宣言に盛り込まれたことに反発したからだろう。

 金正恩朝鮮労働党委員長とすれば、先月の南北首脳会談で醸成された融和ムードをテコに自分たちが主張する「非核化」に肯定的な反応を見せるトランプ米大統領との会談をこのまま思惑通りに運びたいはずだ。非核化のプロセスを輪切りのように段階的に実施し、そのたびに相応の制裁解除など見返りを取り付けるのが狙いと思われる。

 その最中に拉致問題がクローズアップされれば、圧力強化のムードが再び国際社会に広がりかねない。それを遮断するため拉致問題を封印するかのごとき発言をしたのではないか。

 北朝鮮は今月23~25日に北東部の豊渓里にある核実験場の坑道を爆破し、入り口を封鎖する実験場廃棄の式典を行うと発表したが、その際の現地取材は米国、英国、韓国、中国、ロシアのメディアに対してのみ許可し、日本は除外された。

 北朝鮮の完全非核化に懐疑的な日本への単なる嫌がらせにとどまらず、関係諸国の間で日本を孤立させることで制裁緩和の流れをつくり出そうという計算が働いているとみられる。

 日本としては北朝鮮が言う「非核化」を中途半端に終わらせないために、また拉致被害者全員の帰国実現のためにも「拉致解決済み」という北朝鮮の主張は全く受け入れられない。

 北朝鮮は先日、拘束中だった米国人3人を解放し、未明に帰国した3人をトランプ大統領が自ら出迎えた。米朝会談に向けた地ならしの意味が強いが、拉致問題を最優先課題に掲げる日本としては複雑な心境にならざるを得ない。

 ビジネスや教育活動のために北朝鮮にいた3人と拉致被害者を比較することはできないが、今回の米国人解放で北朝鮮は日本に対しトランプ大統領のように対話路線に転換しない限り拉致被害者の解放には応じられないというメッセージを暗に発している可能性がある。だとすれば圧力を回避するための巧妙な戦術と言えよう。

北朝鮮には毅然と臨め

 日本は米朝会談に向け、北朝鮮に完全非核化を迫る上で圧力が最後まで欠かせないことをトランプ大統領に粘り強く説いていくべきだ。対話ムードの中でも拉致問題を引っ込めることなく、北朝鮮に毅然(きぜん)とした態度で臨まなければなるまい。