韓国・李氏逮捕、常軌逸する前・元大統領叩き


 韓国の李明博元大統領(76)が巨額の収賄容疑などで検察当局に逮捕された。大統領経験者の逮捕は全斗煥、盧泰愚両氏と朴槿恵前大統領に続き4人目。特に現職だった朴被告が昨年3月、弾劾・罷免後に逮捕されたばかりという異例の事態だ。約9年続いた保守政権から交代した革新系の文在寅政権による政治報復との見方が出ている。

 盧武鉉氏自殺で敵愾心

 李容疑者には在任期間中(2008~13年)、情報機関の国家情報院が業務上使用する「特殊活動費」を青瓦台(大統領府)に上納させていた疑いや実質的に所有していたとみられる自動車部品会社を舞台にした裏金作り、同社の訴訟費用を大手財閥系のサムスン電子に負担させ、見返りの便宜供与もしていた容疑などが持たれている。

 これまでも大統領の汚職が表面化するたびに、権力が一極集中する「帝王的」な大統領制に問題があると指摘されてきた。政権を失った側は全てを失うため、政権を取った暁にはその恨みを報復で晴らす。文氏は09年に政治的師と仰ぐ盧武鉉元大統領が巨額収賄疑惑で聴取された後に自殺した件で、当時の李政権に責任があるとして相当の敵愾心(てきがいしん)を抱いていたとされる。

 文氏は朴被告が関わった国政介入事件をきっかけに勢いづいた反保守世論に乗じ、「積弊清算」を訴えて政権交代にこぎつけた。さらに間もなく李容疑者の疑惑が浮上し始めた。民主主義国家における前・元職大統領叩(たた)きは常軌を逸しており、政治的な思惑が絡んだ逮捕劇ではないと見る方が不自然だ。

 政権交代のたびに大統領経験者が被疑者扱いにされ、逮捕される光景に日本をはじめ周辺国は当惑せざるを得ない。単に隣国の内政問題にとどまらず、外交政策まで急激に方針転換されることが多々あるためだ。

 核・ミサイルの脅威などへの対応が急務な北朝鮮問題では、先月の平昌冬季五輪で北が見せた「微笑外交」を契機にすっかり対話ムードが広がり、来月の南北首脳会談と5月末までの米朝首脳会談の開催が決まった。

 これらは北に融和的な文政権の登場を好機と捉えた金正恩朝鮮労働党委員長が制裁緩和や核・ミサイル開発の時間稼ぎを狙ったものである可能性が高いにもかかわらず、韓国は北のペースに巻き込まれつつある。

 李・朴両政権は北が繰り返す武力挑発や人権侵害などに断固たる態度で臨んできた。国際社会の制裁網に苦しむ北が今回、対話路線に転じたのはその成果とも言え、日米韓の連携が重要な役割を果たしてきた。だが、積み上げられてきた対北政策を文政権は180度転換させ、連携にひびが入ろうとしている。

 大統領経験者に対する捜査や裁判では、政権の意向をくむ司法のあり方を問題視する声もある。歴史認識絡みで反日色を強める文政権下でも関連訴訟で法に基づく判断が後回しにされ、「反日無罪」が繰り返されるのではないかと憂慮される。

 外交に影響させるな

 現在、北朝鮮情勢は重大な局面を迎えており、日韓の連携はかつてなく重要だ。文政権には国内政治の論理を外交分野にまで及ばせない責任がある。