韓国大統領演説、連携を揺るがす日本批判


 韓国の文在寅大統領が日本統治下で起きた独立運動を記念する「三・一節」行事で演説し、いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意や島根県・竹島(韓国名・独島)領有権をめぐり日本批判を展開した。

 国内向けメッセージの性格が強いという見方もあるが、日本の韓国に対する信頼関係構築を妨げるのは必至だ。武力挑発を続ける北朝鮮を抑止するための両国の連携が揺らぎかねない。

慰安婦合意で踏み込む

 文大統領は演説で慰安婦問題について「加害者である日本政府が『終わった』と言っては駄目」と述べ、「最終的、不可逆的な解決」を確認し合ったはずの日韓合意に関し、さも日本側に瑕疵(かし)があったかのような言い方をした。

 これまで文大統領は被害者である元慰安婦が納得していないと強調してきたが、さらに踏み込んで「日本側の非」を指摘した形だ。2国間合意を一方的にないがしろにしたことには相変わらず一言も触れていない。韓国のマスコミや世論でもその点が一向に問題視されないことには驚きを禁じ得ない。

 文大統領は竹島にも言及。「日本の朝鮮半島侵奪の過程で最初に強制的に占拠されたわが国固有の領土」と述べ、歴史的事実に照らしても、国際法上も日本固有の領土と主張する日本政府の見解を真っ向から否定した。平行線をたどってきたこの問題を蒸し返したのは先月、島根県主催で行われた「竹島の日」の行事への対抗措置のためとの見方も出ている。

 この日は韓国人の多くが否が応でも反日感情を喚起させられる日だ。通常、行事にはソウル市内の大型屋内施設が利用されてきたが、今回は日本統治時代に韓国人多数が収容された刑務所跡が使われ、反日演出を際立たせた。6月に統一地方選を控え、世論を意識する側面もあっただろう。文大統領の演説内容は国内向けメッセージの性格も帯びている。

 だが、それにしても日本批判が行き過ぎてはいないか。「歴史直視」を強調するあまり日本の韓国不信が深まれば、北朝鮮問題をめぐる連携にひびが入るのは避けられない。韓国国内でも北朝鮮の非核化に向けた日米韓3カ国の足並みが乱れることを憂慮する声が上がっている。

 現在、文大統領にとり対日政策の優先順位は高いとは言えない。それが相手側の反発に配慮しない安易な強硬発言を可能にさせてはいまいか。

 平昌冬季五輪では北朝鮮が金正恩朝鮮労働党委員長の妹、与正氏を送り込み、文大統領に訪朝を招請した。数百人規模の芸術団・応援団は韓国を魅了し、融和ムードを一気に高めた。だが、文大統領は北朝鮮非核化より念願の南北首脳会談に気を取られるようなことがあってはならない。

北の脅威に対応せよ

 文政権は日本に対し歴史認識と安全保障・経済協力を分けて対応するツー・トラック戦略を掲げているが、歴史に足を引っ張られ、日韓関係が再びぎくしゃくし始めている。日韓が連携を強めなければならない最大の理由が北朝鮮の脅威への対応であることを忘れてはなるまい。