元徴用工請求権、未来志向に逆行しまいか


 戦時中の韓半島出身徴用工が強制的に連行・労働させられたなどとして戦後、日本企業に謝罪や補償を求めてきた問題で、韓国の文在寅大統領は就任100日の記者会見で個人の請求権は消えていないとする考え方を支持した。従来の韓国政府見解を覆すもので日韓関係に悪影響を及ぼしかねない。

「最終的解決」を無視

 文大統領は会見で「両国間の合意が個人の権利を侵害できない」と述べた。これは1965年の日韓基本条約と請求権協定で韓国に対する補償が「完全かつ最終的に解決された」ことを無視するに等しく、日本としては容認できない。

 文大統領は個人請求権が残っているとする憲法裁判所や大法院(最高裁判所)の判例に従って歴史認識問題に臨むとも語った。政治情勢や世論にしばしば左右されてきた韓国司法の判断に依拠しようという姿勢は納得できない。

 来月に任期満了となる大法院長の後任にはリベラル派の地裁所長が指名された。大法院は元徴用工の個人請求権について、このところ確定判決を見送ってきたが、新しい院長が就任すれば早々に「請求権あり」の判断を下す可能性もある。

 文大統領は日韓未来志向を重視すると繰り返し強調しているが、これではその真意が問われる。特に立場の違いで見解のズレが生じやすい歴史認識問題の場合、2国間の政治決着が重要だ。何十年も経過した後にその価値や意義を貶めたり、合意自体を反故にするような行為は慎むべきだろう。

 日韓議員連盟の会長を務める自民党の額賀福志郎元財務相らが訪韓し、文大統領を表敬訪問した。額賀氏は文大統領に請求権に関する日本政府の立場を説明したが、それは文大統領の発言が未来志向に逆行しかねないという懸念もあってのことだ。

 未来志向を重視すると言うのであれば国内でも一環した姿勢を見せることが必要だ。過激な「反日」行動で知られる市民団体や労働組合の活動を民間だからという理由で黙認し続ければ未来志向は遠ざかる。

 ソウルの日本大使館や釜山日本総領事館の前に設置された、いわゆる従軍慰安婦を象徴する像の撤去問題について文大統領は反対世論を理由に消極的だ。それだけでなく今月、ソウルの竜山駅前広場に違法設置された徴用工像の扱いに関しても韓国政府の取り組みは十分とは言えない。

 喫緊の課題である北朝鮮による核・ミサイルの脅威に対抗するには日米韓3カ国の連携が不可欠だ。そのような時に韓国が日本との「過去」に固執し、その結果、両国関係が悪化すれば3カ国全ての国益を損なう。日本にとって韓国がそうであるように、韓国にとっても日本は安全保障と経済などで協力を深めるべき隣国であるはずだ。

トップ同士信頼関係築け

 文大統領は日韓首脳が相手国を訪問し合うシャトル外交の復活に同意するなど対話には前向きだ。トップ同士が信頼関係を築けば懸案解決にも道が開け、相手国世論にも肯定的影響を与えられる。まずはそういう関係を早く築いてほしいものだ。