南北会談提案、解せない文政権の対話路線


 韓国政府が北朝鮮に双方の軍事的緊張緩和に向けた軍事当局者同士による会談と離散家族再会事業を再開させる赤十字の実務者協議の開催を提案した。文在寅大統領がベルリンでの演説で北朝鮮の核凍結などを条件に南北対話を呼び掛けたことを受けての措置だ。だが、北朝鮮の核・ミサイルの脅威はエスカレートするばかりで、国際社会は対北制裁を強めている。韓国だけが対話に前のめりになるのは解せない。

核に歯止め掛からず

 文大統領は当初から金大中・盧武鉉両政権の対北対話路線を継承するとみられていた。両政権下で行われた2回の南北首脳会談における共同宣言に繰り返し言及し、閣僚人事では統一相をはじめ南北関係省庁のトップに会談経験者を任命するなど対話推進の布陣を固めた。

 トランプ米大統領との会談では南北対話に理解を得られたと強調し、成果として喧伝(けんでん)した。これで心置きなく北朝鮮との対話を推進できると思ったのだろうか。文大統領は自らが「南北関係の運転席に座る」と述べた。

 今回、南北対話の中でまず軍事会談と赤十字協議を提案したのは国際世論を考慮した結果だろう。軍事会談であれば北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる緊張の緩和を議題に上げることができるし、赤十字協議は離散家族再会という人道問題であるため反対される理由がない。

 だが、金・盧両政権での対話路線は結局、韓国の一方的な経済支援に終わり、北朝鮮の核・ミサイル開発に歯止めを掛けられなかったことを思い起こしたい。北朝鮮は韓国との対話で経済的実利を得ることだけに関心を寄せてきた。

 今回も文大統領の条件付き南北対話を「寝言のような詭弁(きべん)」と非難し、核・ミサイル問題は韓国ではなく、あくまでも米国との間で協議するという姿勢に変わりはないようだ。

 それでも対話を進めるというのであれば、その真意が問われる。南北融和の雰囲気は歴代の韓国左派政権によって基盤固めに利用されてきた。今回もそれが目的ならば「対話のための対話」という批判を免れない。

 文大統領は北朝鮮の最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談実現にも意欲的だ。父、故金正日総書記の時より核・ミサイルの脅威は格段に高まっている。金委員長は義理の叔父の処刑や異母兄の暗殺を指示したとみられており、残忍さは父親の比ではないと言われる。会談で北朝鮮の独裁体制に変化を促す気概が感じられなければ、国際社会の理解は得られまい。文政権が北朝鮮との対話を推進すれば、対北圧力で連携する日米韓3カ国の足並みが乱れる恐れがある。その結果、喜ぶのはその連携に楔(くさび)を打ちたい中国だ。北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験で3カ国連携が強化されつつあっただけに中国としては大歓迎だろう。

軍の士気に悪影響も

 文政権の対北対話路線は今なお軍事境界線で北朝鮮軍と対峙(たいじ)する韓国軍の士気にも悪影響を及ぼしかねない。

 国の根幹を揺るがしてまで北朝鮮との対話を進めれば国内世論の反発は必至だ。