北「ICBM発射成功」


EEZに弾道ミサイル
米攻撃能力示し対話要求も

 韓国軍合同参謀本部は4日、北朝鮮が同日午前9時40分(日本時間同)ごろ北西部の平安北道亀城付近から弾道ミサイル1発を日本海に向けて発射し、約930㌔飛行した後、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは午後の「特別重大報道」で「大陸間弾頭ミサイル(ICBM)火星14型発射に成功した」と発表。防衛省は米韓軍当局と協力しミサイルの性能を分析中だが、仮にICBMだった場合、米本土への攻撃能力を誇示することで米国に直接対話を迫ることも予想される。

大陸間弾道ミサイル「火星14」

4日、北朝鮮が成功したと発表した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射の様子(朝鮮中央通信電子版より・時事)

 同テレビは今回発射されたとみられる弾道ミサイルや発射現場を視察した最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長、金委員長による直筆の発射承認サインなどの写真を公開し、成果を強調した。

 今回の弾道ミサイルはロフテッド軌道と呼ばれる高角度の発射だったとみられるが、5月に発射した中距離弾道ミサイルより飛距離や高度が伸びたことや飛行時間などから正常角度で発射した場合、射程が7000~8000㌔に達するとの見方も出ている。

 発射は米韓首脳会談で北朝鮮の核・ミサイル脅威に断固として対応することが確認された直後である上、7日からドイル・ハンブルクで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で日米韓3カ国をはじめ各国が北朝鮮問題で連携を強めることが予想され、これを牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

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 北朝鮮による弾道ミサイル発射は韓国・文在寅政権が発足してから今回で6回目。文政権は南北対話推進に意欲的だが、北朝鮮の武力挑発への対応が先決課題になっている。

 文大統領はこの日、国家安全保障会議(NSC)を主催し、今後の対応を協議。訪韓中のキャメロン前英首相との会談では「北朝鮮が越えてはならない一線を越えた場合、われわれがどのように対処するか分からない」と述べ、強硬策も辞さない考えを示した。

(ソウル上田勇実)

「ICBM」既成事実化狙う

解説

 【ソウル時事】北朝鮮が4日、「特別重大報道」として「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功した」と発表したのは、米独立記念日(7月4日)に合わせ、米本土を標的とし得るミサイルを開発したことを誇示する狙いがある。「最強のICBM保有」(朝鮮中央テレビ)を既成事実化し、トランプ政権をけん制した形だ。

 特別重大報道はまた、「外国勢力を排除した統一問題の自主的解決」など祖国統一の三大原則をうたった1972年7月の南北共同声明から45周年を迎えたのを機に、国際制裁をものともしない「自立的な国防工業の威力」(同テレビ)を強調した。発射には国内の引き締めを図るとともに、韓国の文在寅政権に「対米追従」をやめ、南北対話に臨むよう揺さぶりを掛ける意図もありそうだ。

 6月10日付の党機関紙・労働新聞はこれに先立ち、論説で「われわれが最近相次いで実施した戦略兵器の実験は、ICBMを試射する時期が決して遠くないことを明確に確認した」と主張。発射実験に向けた技術的準備がほぼ完了したことを示唆していた。

 ただ、米軍は「中距離弾道ミサイル」と発表、文大統領も「ICBM級の可能性も念頭に分析中だ」と述べるにとどめており、ICBMとは断定しておらず、北朝鮮がICBMの技術を完全に確保したかどうかは不透明だ。また、新たな核実験の実施は見送っており、トランプ政権との決定的な対立局面に入る事態は避けたいという意図もうかがえる。今後、6回目の核実験に踏み切るかどうかが焦点となる。

 北朝鮮は今後、「ICBM保有」を前面に打ち出し、朝鮮戦争休戦協定の平和協定への転換をトランプ政権に訴えていくとみられるが、国際制裁がさらに強まるのは必至だ。韓国に亡命した北朝鮮の太永浩・元駐英公使は北朝鮮内部で金正恩政権への反感が強まっていると指摘しており、制裁強化が体制の動揺につながる可能性も否定できない。