化学兵器、北朝鮮の平和への挑戦を許すな


 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアで殺害された事件では、化学兵器である猛毒の神経剤VXが使用された。

 化学兵器は大量破壊兵器の一つであり、戦争などで使われれば甚大な被害をもたらす。個人に対するものとはいえ、化学兵器の使用は世界平和への挑戦であり、決して容認できない。

 正男氏殺害でVX使用

 化学兵器の開発や生産、使用は化学兵器禁止条約で禁じられているが、北朝鮮は加盟していない。化学兵器は「貧者の核兵器」とも呼ばれ、一定の技術があれば安価に製造でき、大量生産が可能で保管も比較的容易とされている。

 北朝鮮は60年代初めごろから生物化学兵器の開発、生産に着手し、保有量は2500~5000㌧に上るとされている。国連安全保障理事会決議を無視して核・ミサイル開発を進める北朝鮮に、これだけ大量の化学兵器が存在することは危険極まりないことであり、国際社会は核兵器とともに廃棄するよう圧力をかける必要がある。

 韓国の黄教安大統領代行(首相)は、正男氏殺害事件を「化学兵器テロ」と非難した。日本でも化学兵器によるテロへの備えが求められよう。

 日本では22年前のきのう、オウム真理教の信者による地下鉄サリン事件が発生した。日比谷、丸ノ内、千代田の3路線で猛毒ガスのサリンがまかれ、13人が死亡し、6000人以上が負傷した事件は、世界初の都市型の生物化学テロであり、全世界に衝撃を与えた。

 オウム元代表の松本智津夫死刑囚は、日本を支配して王になろうとし、妨げになると見なした者はポア(殺害)するという教義で多くの事件を引き起こした。殺害のために、サリンやVXガスを製造して使用した。

 一方、正男氏が殺害された理由は依然不明だが、金委員長が何らかの理由で自らの権力維持に兄の存在が邪魔になると考え、殺害を指示したとみられている。両者とも身勝手極まりない理由で化学兵器を使ったことは共通しており、到底許されるものではない。

 VXはわずかでも体内に入れば死亡する猛毒で、毒性はサリンの約10倍とされる。1950年代に英国で開発され、60年代に米軍が化学兵器として完成させた。オウムは溶液にして使ったが、正男氏暗殺ではクリーム状にして顔に塗ったとみられている。正男氏は襲撃されてから20分以内に死亡した。

 日本政府は事件を踏まえ、米国に北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう働き掛けていく方針だ。トランプ米政権は、北朝鮮への先制攻撃や在韓米軍への核兵器再配備なども検討しているとされる。

 国際社会は圧力強化を

 北朝鮮は核開発と経済発展の並進路線を進めるとしているが、核や化学兵器を廃棄し、全ての拉致被害者を帰国させない限り、経済の立て直しは困難だ。金委員長による側近粛清などの恐怖政治も、長期的には体制を不安定化させる可能性がある。国際社会は圧力強化で、このことを北朝鮮に認識させる必要がある。