北ミサイル発射、日米揺さぶりは通用しない


 北朝鮮が北西部の亀城付近から中距離弾道ミサイル1発を東方に向けて発射した。ミサイルは約500㌔飛行して日本海に落下した。安倍晋三首相とトランプ米大統領による初の首脳会談に合わせ、日米両国を牽制(けんせい)したものとみられるが、会談で確認されたように北東アジアの安全保障をめぐり両国の結束は固く、揺さぶりは通用しないことを北朝鮮に改めて思い知らせる必要がある。

 確実に増している脅威

 今回発射されたミサイルは射程2500~4000㌔の新型中距離弾道ミサイルとみられ、日本は全土が射程内だ。予告なしの発射であり、日本海への落下は付近を往来する日本の船舶や航空機の安全を無視したもので容認できない暴挙である。

 北朝鮮国営テレビは映像を公開し、ミサイルは潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の改良型で、新たに開発した固体燃料エンジンを使用したと明らかにした。映像では発射後に発火する技術が導入されており、事前の探知がより困難になったと思われる。脅威は確実に増していると言えよう。

 昨年1年間だけで20発以上の弾道ミサイルを発射した北朝鮮は、11月の米大統領選の直前からピタリと発射を止めていた。それが日米首脳会談でトランプ大統領の対北強硬路線が鮮明になった途端の発射だ。タイミングを見計らって米政権と日米同盟に揺さぶりをかけようとしたのは明らかだ。

 今回の発射は「ロフテッド軌道」と呼ばれ、通常より高角度で発射し高高度まで打ち上げる方法が取られたようだ。核弾頭を搭載したミサイル先端部の大気圏への再突入時に発生する高熱への耐久性や標的を正確に攻撃するための姿勢制御などが検証された可能性がある。

 米本土を攻撃する能力をちらつかせ、米国を交渉のテーブルに着かせる狙いだろう。核保有国としての地位を認めさせ、米国と対等な立場で核軍縮交渉を進め、最終的に米国から経済制裁解除や体制保障を取り付けるのが北朝鮮の戦略と言われる。

 トランプ大統領が核を放棄しない北朝鮮にどう向き合うのか未知数の部分も残されているが、少なくとも武力挑発には断固たる態度を示した。発射直後、安倍首相がトランプ大統領と共に北朝鮮を厳しく非難する声明を発表した意味は大きい。

 一つ懸念されるのは韓国情勢だ。来月にも判決が下される見通しの朴槿恵大統領に対する憲法裁判所の弾劾審理で、仮に弾劾が妥当と判断された場合、朴大統領は罷免され、次期大統領選が60日以内に実施される。

 今のところ支持率で優勢な文在寅・元「共に民主党」代表は北朝鮮への融和路線で知られる。次期政権が北朝鮮への警戒を緩めれば、日米韓3カ国の安保協力体制が崩れ、北朝鮮にさらなる武力挑発を許す恐れがある。

 非難声明だけでは不十分

 国連安全保障理事会は緊急会合を開き、発射が安保理決議への重大な違反だとして強く非難する報道声明を全会一致で採択したが、声明だけでは不十分だ。中国が対北制裁に歩調を合わせていない問題も国際社会が真剣に議論しなければならない。