朴大統領弾劾、国政混乱で安保空白つくるな


 長年の友人だった崔順実被告による国政介入事件をめぐり退陣圧力を受けていた韓国の朴槿恵大統領に対する国会の弾劾訴追案が可決された。朴大統領は職務停止となり、黄教安首相が権限を代行するが、国政の混乱も憂慮されている。

「慰安婦」合意に影響か

 弾劾案は、表決に参加した299人の国会議員のうち234人が賛成し大差で可決された。野党はもちろんのこと与党も朴大統領と距離を置く非主流派だけでなく、朴大統領を支えてきた主流派議員の一部まで賛成票を投じた結果だ。

 多くの国民から下野を求められていた朴大統領を無理してかばえば、今度は自分たちの政治生命が危うくなる。今回の事件で壊滅的な打撃を受けた与党陣営としては「朴大統領離れ」で再度世論の支持を取り付けたい思惑があるようだ。

 今後の焦点は、弾劾案可決を受けて始まる憲法裁判所の審理に移る。最長で180日を要するが、2004年に同じく現職として弾劾案が可決された盧武鉉大統領の時は、約2カ月間の審理の末に棄却され、盧大統領は復職した。

 憲法裁が朴大統領に重大な違法行為があったと判断すれば罷免となり、不訴追特権を失うことになる。同時に進められる特別検察官による捜査の行方次第では、朴大統領は事件に関わった容疑で起訴される可能性がある。大統領から被告へと一挙に転落するかもしれない。

 懸念されるのは国政の求心力が弱まり、外交や安全保障などの分野で政策推進力が低下しかねないことだ。日本との関係では、昨年末のいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意で、その履行への影響が心配される。

 特に在ソウル日本大使館前に設置された、慰安婦を象徴する少女像の撤去について、韓国政府がどこまで進展させられるのか極めて不透明な情勢になってきた。

 今回の事態で、東京での年内開催を模索してきた日中韓首脳会談は、朴大統領の出席が不可能となり、見送られる公算が大きくなった。首脳同士のコミュニケーションにも支障が出始めている。

 韓国側の性急とも言える取り組みで締結にこぎつけた日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も、再び野党や世論の批判にさらされる恐れがある。

 北朝鮮による核・ミサイル開発が進む一方、次期米大統領のトランプ氏が日米同盟、米韓同盟をめぐりどのような要求をしてくるのか不透明だ。日米韓3カ国が連携を一層強めなければならないこの時、韓国の混乱は痛手というほかない。

 これに乗じ北朝鮮が武力挑発のチャンスをうかがっていることも忘れてはなるまい。韓国は日本とできる限り協力し、安保の空白だけは避けるべきだ。

安定損なう親北政権誕生

 国政介入事件を受け、韓国の次期大統領選に向けて野党系候補が優位な立場を固めつつあるとも言われる。

 日本としては、仮に北朝鮮に融和的な政権が誕生すれば北東アジア情勢が不安定になる可能性があることも念頭に置いておきたい。